研究課題/領域番号 |
15K04183
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷内 通 金沢大学, 人間科学系, 教授 (40324058)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 潜在制止 / 条件づけ / 指示忘却 / ラット / リクガメ / アカハライモリ / キンギョ |
研究実績の概要 |
ヒトは環境を受動的に認識するだけではなく,どの対象に注目あるいは無視し(能動的注意),どの情報を保持するか(能動的記憶処理)について,能動的に世界をとらえて処理する心の働きを持つ。本研究では,能動的な認知過程の進化的起源について,ほ乳類・爬虫類・両生類・硬骨魚類を対象として,比較学習研究を通じて明らかにすることを目的とする。 28年度の成果の要旨(1)アカハライモリにおける食餌性の古典的条件づけにおける連合構造を検討した。前年までに,物体刺激と餌刺激の対提示により,物体刺激に対する接近行動が条件反応として発達することを示した。条件づけの成立後に空腹水準を操作するUS低価値化法によるテストからは,条件刺激は餌表象との連合を通じて条件反応を喚起することが示された。異性個体を提示するテストでは空腹水準の操作は接近反応には影響しないことを示し,条件反応の低下が活動性の低下によらないことを示した。(2)アカハライモリにおいて味覚嫌悪条件づけが成立することを明らかにした。味覚嫌悪条件づけは爬虫類では生じるが,イモリやサンショウウオ等の両生類では生じないとされてきた。本研究では,人工的なかまぼこを条件刺激として使用し,塩化リチウムとの1回の対提示で,1週間後の摂食量が統制条件に対して有意に低下することを示した。また,テスト時の条件刺激の摂取量低下が,塩化リチウム投与による一般的な体調不良によらないことを示した。(3)リクガメにおける古典的条件づけについて,装置の改良によるサイントラッキング反応とゴールトラッキング反応の分離を試みた。しかし,試行開始時の滞在位置を十分に統制できないという問題が示された。(4)ラットについて,記銘項目と忘却項目を同一の放射状迷路試行内で提示する記憶資源再配分型の指示忘却実験を行い,記憶項目に対してラットが選択的に保持を行う証拠を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年次計画に対する進捗状況は以下の通りである。(1)計画:リクガメにおける古典的条件づけの消去,自発的回復,2種のCS間の隠蔽現象を検討する。進捗状況:条件づけの成立は確認したが,条件刺激に接近するサイントラッキング反応と餌刺激の提示場所へ接近するゴールトラッキング反応の分離が旧装置では十分ではなかったことから,走路状の装置による検討を行った。このため,条件づけの消去および隠蔽現象については未検討であり,計画に対して検討が遅れている。(2)計画:アカハライモリについては,新しいCS(物体・振動)を用いた古典的条件づけの成立とUS低価値化法を通じた学習過程の検討を行う。進捗状況:物体刺激を用いた条件づけ実験を行い,US低価値化法による連合構造の検討を行った結果,CS-US連合の形成を示す結果を得た。振動刺激を無条件刺激とする方法は予備的検討により十分な成果を得なかったため,代替案として,味覚嫌悪条件づけを検討し,両生類では初めてその成立を示すことに成功した。(3)計画:キンギョについては,弁別学習事態について検討する。進捗状況:同種他個体に対する自発的な接近行動を利用した弁別学習の成立を確認した昨年度の成果について,追加の実験を行い,これを確証する証拠を得た。(4)計画:ラットでは,被験体内計画による潜在制止現象の検討可能性について検討する。進捗状況:ラットでは,潜在制止現象よりも指示忘却による認知過程の能動的制御の実験が成果を上げているため,こちらを優先した。その結果,記憶資源再配分型の指示忘却をラットで初めて示すことに成功した。また,異なる味覚刺激の継時的提示により,将来に到来する好ましい食物の予期に基づく現在の食物の摂取の抑制が生じることを新たに示す成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
取り組みの中では,両生類であるアカハライモリを対象とした条件づけ研究で最も斬新な成果が得られてきている。一方,リクガメ研究では,基本的な古典的条件づけの成立は確認したものの,条件反応の性質の特定段階で停滞している。このため,爬虫類,両生類,魚類について包括的に潜在制止現象を比較するとした当初の計画を微修正し,アカハライモリによる両生類の多様な条件づけ事態における諸現象の確認と潜在制止過程の検討を重点的に行い,革新的な成果を上げることを中心に目指したい。アカハライモリについては,薬物以外の嫌悪刺激とした検討も進めていく。リクガメおよびキンギョについては潜在制止現象の詳細に関する検討が拙速になることを避け,着実な検討が可能な実験場面の構築を中心に進めていく。ラットについては,潜在制止現象よりも,指示忘却実験において能動的な認知過程制御の明確な証拠が得られてきている。潜在制止現象の検討は継続するが,指示忘却による検討を重点的に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では,アカハライモリに適用可能な振動刺激を嫌悪的な無条件刺激とした実験装置を作成する予定であったが,予備的な検討結果が思わしくなかったため,味覚嫌悪条件づけに変更して成果を得た。このため,振動刺激を用いた実験装置の作成が不要となった。また,味覚嫌悪条件づけは,長期の訓練を必要とせず,基本的に1試行の条件づけと1回のテストで検討可能である。このため,実験補助者の謝金を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
アカハライモリの実験について,嫌悪刺激として振動刺激の代わりに回転水流を用いた検討を予定している。予備的な検討で期待される結果が示された場合には,複数個体を平行して検討可能な装置の作成を行う。また,水流刺激を用いた回避訓練は比較的長期にわたるため,実験補助者の謝金として使用する。
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