本研究では,全体像を直接把握することが不可能な膨大で複雑な事例の集合から,法則性(ルール)を探り出すプロセスにおいて,事例に対する抽象的理解の役割を実験を通して明らかにし.また,その合理性について,計算機モデルを用いたシミュレーションの観点から検証を行うことを目的とした.膨大なデータの中から法則性を見いだす科学的発見は,科学的活動にとどまらず,学習活動などにも関連する人間の知的活動を支える重要な能力の一つである.本研究では,ルール自体は比較的単純である一方で,広大で複雑な事例空間を有する2×2×2のルービックキューブを対象に,どのような初期状態からでもそろえることができるルールの発見を実験課題として設定した. これまでの実験研究を通して,個別の事例を抽象的な事例として捉え,そして,事例空間から抽象的な事例空間を再構成した上でルールの探索が行われていること,また,それを繰り返していく中で,最終的なルールの発見がなされることが明らかにされた. 今年度は,上記のような事例の抽象化と,事例空間の探索において,目標となる事例(ターゲット)の発見の関係について,モデルベースの検討を進めた.認知アーキテクチャとしてACT-Rを用いて,膨大な事例空間に対する探索に関する認知モデルを構築した.シミュレーションでは,個々の事例を異なる事例と見なすモデルを基準として,事例の集合を一つの抽象的な事例として見なすモデルとの比較を通して,事例の抽象的理解がターゲットの探索に促進的に機能することを検証した.
|