研究課題
表情の知覚は,対人相互作用における最初期の重要な過程である.しかし,その神経メカニズムは明らかではない.先行研究に基づき我々は,扁桃体がすばやい表情知覚に関与すると仮説を立てた.これを検証するため,第一に,扁桃体損傷患者を対象とする神経心理学研究を実施した.表情を検出する視覚探索課題について,片側扁桃体損傷患者16名を対象として実験した.複数個の中性表情の中に,1つのターゲット刺激(怒り・幸福の通常表情・逆表情)が存在する試行および存在しない試行を用意し,異なる顔の有無についてのボタン押しの反応時間を計測した.視野欠損の問題等から3名を除き,13名のデータを分析した.反応時間における逆表情と通常表情との差分を取り通常表情の検出優位性の指標とした.刺激が損傷半球に入力された場合,健常半球に入力された場合に比べて,反応時間差分が小さかった.この結果から,表情の検出において扁桃体が不可欠の役割を果たすことが示唆される.第二に,この過程の電気生理学的基盤を調べるため,同様の課題を遂行中の深部脳波を計測することを試みた.脳内に電極を留置するてんかん患者を対象として計測準備をし,3名の計測機会を得た,しかし,患者の当日の状態により実験を実施することができなかった.深部脳波の計測は,今後の課題としたい.第三に,深部脳波の解析を洗練させるため,過去の深部脳波データについて,動力学的因果モデルによる脳領域間結合解析の適用を試みた.顔刺激を観察中の下後頭回と扁桃体のデータを解析した結果,刺激提示後400msのうちに,下後頭回と扁桃体の間に双方向の調整効果が示された.調整効果の周波数プロフィールは,同周波数および異周波数結合を示した.こうした結果から,すばやく効率的な顔処理のため,扁桃体が視覚野と様々な振動を用いて双方向にコミュニケーションすることが示唆される.
すべて 2017
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Human Brain Mapping
巻: 38 ページ: 4511-4524
10.1002/hbm.23678