研究実績の概要 |
睡眠不足は、日中の眠気を引き起こし、居眠り事故の危険性を高めるばかりでなく、ネガティブな感情を引き起こすことが指摘されている。しかしながら、睡眠不足の人が睡眠時間を延長することでネガティブな感情を低減できるかどうかについては検討されていない。そこで睡眠延長が感情制御に及ぼす効果を検討するために,普段通りの睡眠時間で睡眠時間をとった条件(睡眠不足条件)と、普段より2時間睡眠時間を延長した条件(睡眠延長条件)を設定し、イライラ状態を喚起させた場合の攻撃性,自律神経系活動およびパフォーマンスを測定した。実験には,睡眠不足を自覚しながらも普段の睡眠時間が6時間未満で特性怒り(STAXI: Spielberger, 1988)得点が高い女子大学生12名が参加した。活動量計を用いて両条件における前夜の夜間睡眠を確認したところ,睡眠不足条件で平均5.4(±0.7)時間、睡眠延長条件で平均7.5(±0.7)時間であり、条件統制は成功した。翌朝に実施したイライラ喚起課題(中田, 2009)の正答率は,睡眠延長条件(92.1±3.8%)の方が睡眠不足条件(87.1±5.0%)よりも有意に高かった。また、状態怒り得点(Spielberger, 1988)は、睡眠延長条件の方が睡眠短縮条件よりも有意に低かった。Visual analog scaleを用いて測定した眠気、疲労、作業に対する動機づけについても,睡眠延長条件の方が睡眠短縮条件よりも有意に低かった。拡張期血圧では条件間で有意差は認められなかったが、収縮期血圧は睡眠延長条件の方が睡眠短縮条件よりも有意に低くなっていた。以上の結果から,普段から睡眠が不足しており攻撃性の高い者が睡眠を通常の時間に延長することによって、攻撃性や交感神経系活動の亢進を抑制できることが明らかとなった。本研究により、睡眠延長による感情制御の有効性を実証することができた。
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