研究課題
睡眠不足が脳の機能を低下させるとともに、健康を損なう原因となることがこれまで多くの研究で明らかにされてきた。睡眠不足による悪影響は、睡眠時間が世界一短い日本人で特に深刻である。しかし、睡眠時間を増やすことがどのような効果をもたらすのかは検討されてこなかった。そこで初年度と2年度は、普段の睡眠時間が6時間未満で日中の眠気や居眠りに困っている人に対して睡眠時間を2時間延ばしたときの効果を検証した。その結果、1)イライラや怒り、血圧が低下し、2)道徳的判断が速くなり、3)起床時の目覚めと日中の眠気が改善した。最終年度は、2週間にわたる睡眠改善が精神的健康と自己効力感に及ぼす効果を検証した。大学生247名を対象として、2週間の睡眠日誌を2回記録してもらった。1回目の睡眠日誌において、自身の睡眠習慣を把握してもらい、2回目の睡眠日誌で睡眠問題の改善に取り組んでもらった。2回目の睡眠日誌の記録前後で抑うつ、精神健康調査および自己効力感を測定した。これら全ての項目に回答した112名のデータを分析したところ、睡眠習慣の改善によって1)夜間睡眠では寝つきと熟眠感が向上し、2)起床時の気分、日中覚醒も上昇し、3)ポジティブ志向と自己効力感も上昇し、さらに4)抑うつが低下した。また、睡眠時間と感情のコントロール(r=.202),起床時の気分(r=.274),日中覚醒(r=.309)との間に正の相関が認められた。以上の結果から、睡眠を適正に確保することが感情制御と日中覚醒の維持、および精神的健康の向上に有用であることが検証できた。これらの研究成果は、睡眠時間が世界一短い日本人に対して、適切な睡眠を確保するための施策と教育を実施する際の重要なエビデンスとなりうるものである。
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Sleep and Biological Rhythms
巻: 16 ページ: 印刷中
モダンフィジシャン
巻: 37 ページ: 861-863