研究課題/領域番号 |
15K04187
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小川 景子 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (70546861)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感情調整 / レム睡眠 / ノンレム睡眠 / 脳波 / 事象関連電位 / 感情記憶 / 宣言記憶 |
研究実績の概要 |
嫌な出来事があっても「寝たら忘れる」ことがある。近年、睡眠の感情調整機能が報告されており、一晩の睡眠の中でも特にレム睡眠との関連が示されている。レム睡眠はさらに、情動記憶の固定促進機能も報告されている。そこで本研究では、感情調整機能のうち気分改善効果と情動記憶の強化の両側面に着目し、それぞれが関与する睡眠中の神経基盤について心理生理学的検討を行う。最終的には、気分改善効果と情動記憶の強化が睡眠中の異なるタイミングおよび神経基盤により成立していることを検証する。睡眠の感情調整機能について検討することで、心身ともに健康で快適な日常生活を送るための睡眠の役割を客観的に示す。 初年度(平成27年度)は、社会的排斥によって気分(社会的痛み)を操作するサイバーボール課題を用いた実験を行った。検討の結果、社会的排斥という感覚的な嫌悪経験においてもレム睡眠が感情調整機能を持つことを示唆した。続いて、平成28年度は、感情価の異なる単語に対する記憶課題を用いた実験を①覚醒群と②睡眠群(日中の90分仮眠)の2群に対して行った。検討の結果、快感情および不快感情を伴う単語の両方において、覚醒群よりも睡眠群で再成率が向上し、両再生率はレム密度と正の相関関係を示した。一方、睡眠群の単語再生率は、快感情よりも不快感情を伴う単語で向上を示した。この結果は、睡眠をとることで快よりも不快の感情記憶の固定が促進されたこと、さらにこの促進にはレム睡眠が影響した可能性を示唆している。 今後、ノンレム睡眠と記憶課題の関連を検討する。これにより、レム睡眠とノンレム睡眠の役割について検討が可能となり、気分改善効果と情動記憶の強化が睡眠中の異なるタイミングと神経基盤により成立していることの検証に貢献すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、睡眠群(記銘と想起の間に睡眠をとる)と覚醒群(記銘と想起の間に覚醒を維持する)に加え、特定の睡眠段階を選択的に短縮する群(レム短縮群、ノンレム短縮群)による検討を行うこととしていた。しかし、覚醒群を設ける場合、夜間に覚醒の維持を行うことで、覚醒群が必ずしも睡眠群の統制条件となりにくいため(夜間の必要な睡眠が欠如することによる影響が出てしまう可能性)、平成28年度は、日中の仮眠(90分)を用いることで覚醒群を設定した。一方で、90分の仮眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠についてそれぞれ1周期ずつしか確保できないため、特定の睡眠段階を短縮する群は設けず、覚醒群と睡眠群の2群で検討を行った。 検討の結果、快感情および不快感情を伴う単語の両方において、覚醒群よりも睡眠群で再成率が向上し、両再生率はレム密度とそれぞれ正の相関関係を示した。一方、睡眠群の単語再生率は、快感情よりも不快感情を伴う単語で向上を示した。この結果は、睡眠をとることで快よりも不快の感情記憶の固定が促進されたこと、さらにこの促進にはレム睡眠中の急速眼球運動が影響した可能性を示唆している。今後は、ノンレム睡眠の潜時および長さ、スピンドル密度との関連を検討することで、ノンレム睡眠の役割についても検証する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成29年度においても引き続き、睡眠と情動調整機能について検討を行う。そして3年間における一連の検討を通して、①睡眠中の情動抑制機能はレム睡眠中の扁桃体に由来すること、②情動強化機能は、ノンレム睡眠中の視床-皮質回路に由来することを示す。 平成29年度の具体的な検討項目として、平成27、28年度に測定した情動抑制課題および情動強化課題中の脳電位を用いて、各課題中のERPを算出し、課題ごとに条件間比較を行う。これらの検討により、以下の仮説を設定している。情動抑制課題において、①課題後に睡眠をとることでとらない場合に比べて、社会的痛みの程度の低下に合わせてP3b振幅が増大し、N2振幅は減少するだろう。②課題後の睡眠操作について、通常の睡眠をとる統制条件でもっとも社会的痛みが抑制され、続いて、ノンレム断睡眠条件、レム断眠条件の順で痛みの抑制が大きくなるのに合わせて、P3bについても、ノンレム断睡眠条件、レム断眠条件の順で振幅が増大する。一方、N2については、条件間で有意差は認められないだろう。情動強化課題において、課題後に睡眠をとることでとらない場合に比べて、睡眠前にも呈示され睡眠後に呈示される単語についてP3振幅が増大するだろう。 これに加えて、平成27、28年度にはノンレム睡眠(潜時、長さ、スピンドル密度等)の検討が十分ではなかったため、本年度はノンレム睡眠と課題との関連も詳細に検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験群を減らしたため参加者謝金が余ったことと、予定していた学会へ行くのを中止したため、余りました。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、データが足りなかった分の追加実験を行うため、参加者謝金と学生アルバイトの謝礼を追加で支払う予定です。
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