幼年期のストレス負荷によって、発達期及び成長後の記憶・学習能力への影響と海馬の抗酸化作用を有する微量元素である亜鉛、セレン、銅、マンガン含量およびDNA・蛋白・脂質の酸化との関係を明らかにするために、早期母子分離群(生後1日~14日、3時間/日の母子分離を行う)と対照群のモデルマウスを作成し、生後13週で海馬と血液を採集し、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて海馬の亜鉛、セレン、銅、マンガン、カルシウム含量を測定し、ELISA法で血漿の蛋白質酸化損傷マーカーであるカルボニル化蛋白、DNA酸化損傷マーカーである8-OHdG量を測定した。その結果:1. 対照群の海馬のセレン含量は早期母子分離群より三倍近い高かった。両群の海馬のセレン含量はきわめて有意な差が認められた。しかし、両群の海馬の亜鉛、銅およびマンガン含量は有意差が認められなかった。2. 早期母子分離のストレス負荷により血漿のカルボニル化蛋白と8-OHdG量が上昇したが、両群の血漿のカルボニル化蛋白と8-OHdG量は有意差が認められなかった。3. 早期母子分離群の海馬のカルシウム含量は対照群より2倍以上高かった。しかし、両群の海馬のカルシウム含量は有意差が認められなかった。以上の結果から早期母子分離のストレス負荷により海馬のセレン含量に影響を与えるが、海馬の亜鉛、銅、マンガンおよびカルシウム含量に有意な影響を与えていないことが分かった。これから、母マウス妊娠中と子マウスに亜セレン酸ナトリウムの投与によって記憶・学習能力への影響を分析し、幼年期の記憶・学習障害の治療法の開発を目指す。本研究によって、幼年期の一過性のストレスが生涯にわたって記憶・学習能力に影響及ぼす分子基盤が解明され、幼年期および成長後の記憶・学習障害の治療法の開発に結びつけることも可能であり、医学・生物学に与えるインパクトは大きいものと確信する。
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