研究課題/領域番号 |
15K04190
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 顔の信頼感 / 表情 / 協調行動 / 進化心理学 |
研究実績の概要 |
本研究では、協調行動に果たす表情の役割に注目し、協調行動が社会において成立するための前提条件である裏切り者の検出について検討を行う。これまでの研究によると人社会的な状況において、利益を得るが対価を払わない裏切り者を人間はたやすく検出できることが示されてきた。しかし、実社会での裏切り者検出は必ずしも簡単ではない。そこで、本研究ではこのような実社会での裏切り者検出の困難を説明するため「笑顔による裏切り意図の隠蔽仮説」を設定した。笑顔は協調のシグナルであり、笑顔を浮かべることで見た目の信頼感は上昇する。ただし、その一方で笑顔は最も模倣しやすい表情でもある。このような笑顔の特性を考慮し、本研究では、「裏切り者が自分自身の表情から出る裏切りのシグナルを意図的に隠蔽するために巧みに笑顔を浮かべるため裏切り者検出が困難になる」という仮説を設定した。これが「笑顔による裏切り意図の隠蔽仮説」である。本研究ではこの検討のため,経済ゲームを用い協調行動における裏切り者と協力者を分類し,ゲーム中のダイナミックなやり取りにおける彼らの表情を分析する。笑顔による裏切り意図の隠蔽仮説が正しければ、裏切り者は笑顔を強く浮かべ、かつ、それが強調されるようにコミュニケーションの中で振る舞うことが予測される。現時点はこの予測を支持する結果が得られており、この結果は、米国で開催されたThe 56th annual meeting of Psychonomic Societyで発表された。さらに申請者はその成果を論文としてまとめ、国際的な学術雑誌に投稿した。現在、審査を受けているところである。また、この検討の過程で表情と時間知覚の個人差の検討も行った。その結果は、Frontier in Psychology: Psychopathologyに採択され、論文として公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究において,経済ゲームを用い協調行動における裏切り者と協力者を分類し,ゲーム中のダイナミックなやり取りにおける表情を分析を行った。その結果、裏切り者は表情の強くでる顔の左側をコミュニケーションにおいて強調するポーズをとることが明らかになった。そして、そのようなポーズをとった裏切り者は、協調者と同じくらい信頼できるように見えることが示された。このようなポーズをとらなかった裏切り者は協調者よりも、信頼できないように見えた。これらの結果は、本研究で設定した「笑顔による裏切り意図の隠蔽仮説」と一致する。このように研究計画を立案した時に設定した予測と一致する結果が得られ、その成果の公表の準備を行っていることは、本研究が順調に進展していることを裏付けている。 ただし、研究費の採択が、申請者が当初想定していた時期よりも半年ほど遅れたため、当初の計画を完全に遂行することができなかった。データの取得とその解析そのものは、論文化が可能な状態にまで進めることはできたものの、開始時の遅れを完全に取り戻すまでには至らなかった。今後はその遅れを取り戻すべく、より一層の努力をもってこの研究に邁進する予定である。 若干の遅れはあるものの、本研究の成果について、国際学会で発表を終えている。さらにすでに英語論文として国際的な学術雑誌に投稿した。論文はすでに最初の審査を終え、改稿を行い再投稿がなされた段階である。従って、成果の公表についてもその遅れを取り戻すことは十分に可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果をまとめた論文は、現在、投稿され査読を受けている。最初の査読を終え、再投稿がなされた段階であり、採択される可能性が高いと考えられる。もちろん編集者や査読者が論文の採択を決定するので、こちらの予測通りになるとは限らない。しかし、今回の査読で出た批判やコメントに対して、真摯に対応をしたと我々としては、将来に対しポジティブな印象を持っている。 成果をまとめるとともに次の段階への準備も行っている。現在は経済ゲーム遂行中に浮かべた表情の詳細な分析を行うための準備が進行中である。詳細な分析は、表情筋の動きをEkman らのよるFace Action Coding System (FACS)の基準によりコード化する予定である。FACSのコード化は、人間のコーダーが動画を見ながら行う非常に手間のかかるものである。申請者の研究室に所属する博士研究員や大学院生とともに、コーダーの養成を行うととも、実際の解析の準備を進めている。 また、協調行動における感情表出の効果ついて、進化的な基盤を探るため、本研究では文化比較を行う。本研究における仮説は、文化に共通した基盤を想定するもであるため、文化に関わらず一貫した結果が得られると予測される。我々はこの予測を検討するための刺激や教示の準備にも着手した。さらに現地の研究機関において倫理審査を受ける準備を整えている。実験はノルウェーではノルウェー語、オーストラリアでは英語で行うため、日本で行った教示の翻訳やさらにその再翻訳(バック・トランスレーション)も行う必要がある。その準備も進行中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の採択が、申請者が当初想定していた時期よりも半年ほど遅れた。そのため、当初の計画をスケジュールに沿って完全に遂行することができなかった。その遅れのためにスケジュールの再調整ができず、計画時に使用する予定であった旅費などを、当該年度中に使用することができなかった。特に海外出張について本務との兼ね合いから再調整が難しかった。 また、論文の執筆についても採択が遅れたことにより、進行に若干の遅れが生じた。そのため、論文の採択が遅くなり、論文掲載料の支払いを当該年度内に行うことが時期的に不可能になった。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に行う予定であった海外出張を次年度に行い、そのための旅費として予算を執行する。海外への渡航はおよそ1週間から10日ほどとなり、30万円から40万円ほどの支出がなされる予定である。また、Frontiers in Psychology に採択された論文の掲載料の支払いを行う。この金額については4月初旬の段階で請求書が届いており1900アメリカドル、すなわち、およそ20万円程度の支払いとなる。これらを合わせておよそ60万円を支出する予定である。これは次年度使用額とおよそ同じ金額である。
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