研究課題/領域番号 |
15K04190
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 顔の信頼感 / 協調行動 / 左右差 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、本研究プロジェクトの2年目にあたる。今年度は、初年度から行ってきた行動実験のデータを論文としてまとめた。この論文をコミュニケーション研究の領域で国際的にも評価の高い論文誌、Journal of Nonverbal Behavior に原著論文(original article)として英文で出版することができた。この論文では申請者が立案した「作り笑いによる裏切りシグナル隠蔽仮説」の検証がなされた。実験において、協調や裏切りの選択によって金銭を獲得する経済ゲームを行い、そのゲームの際、顔写真を撮影し、ゲーム相手に顔の左右どちらを見せるか調べた。その結果、経済ゲームにおいて他者の利益を奪い自己の利益にする選択を多く行う裏切り者は、顔の左顔を見せること圧倒的に多かった。このような撮影時の左右差は協調的な選択をする協調者には見られなかった。また、ゲームには参加していない別の実験参加者にゲームのために撮影した裏切り者と協調者の写真の信頼感を評定させたところ、左顔をカメラに向けた裏切り者は、協調者と同じくらい信頼できるように見えることが明らかになった。笑顔は顔の左側で強く現れることが申請者らのものを含めたこれまでの研究から知られている。したがって、今回の結果は、笑顔を強く出る顔の左側を効率的に使うことによって、裏切り者が見た目の信頼感を高めていることを示している。すなわち、本研究では検討する「作り笑いによる裏切りシグナル隠蔽仮説」を直接支持する結果が得られた。 論文の執筆や投稿と並行して、ノルウェーとオーストラリアそしてマレーシアで、上述のデータについて国際比較をする準備を行い、データの取得を開始した。このデータの一部は電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション基礎研究会で発表された。今後、さらにデータの取得を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載した初年度、第2年度に行う予定であった実験は順調に実施された。それらの実験においては、概ね予想通りの結果が得られた。しかも、これらの研究成果を国際的な論文誌に2報、掲載することができた。研究の遂行も研究成果の公表も順調である。したがって、現時点では計画に従い、概ね順調に研究は進展していると判断した。計画した国際比較については、先方の都合もあり、全てのデータが現在計画通りに取り終わっているわけではない。しかし、平成29年度にはその遅れも取り戻せるであろう。 研究計画当初は、日本、オーストラリア、ノルウェーの三ヶ国比較を行う予定であった。しかし、研究開始後、マレーシアから、この研究と関連する怒りの表出に関する共同研究の提案があり、それに参加することとなった。そして、マレーシアでも本研究の中心的な仮説でわる「作り笑いによる裏切りシグナル隠蔽仮説」の検討を行うこととした。マレーシアはアジアにあり、文化的にも地政学的にもヨーロッパ諸国よりも日本と似ている可能性がある。一方で、宗教などには大きな違いもあり、進化と文化の関連を検討する上で非常に興味深い対象である。またこれまでの多くの文化比較研究は欧米(主に北米)と東アジア(日本、中国、韓国、台湾、香港)を比較したものが多く、アジア内の比較はあまり多くない。欧米に比べ、アジア諸国における心理学の発展は遅れており、これまであまり多くのデータが得られてはいない。今回、マレーシアでもデータを取ることで貴重なデータを入手できるとともに、アジア内比較という重要であるがあまり手をつけられていない研究領域についても検討を行うことができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に取得されたデータから明らかになった協調行動における感情表出の効果ついて、その進化的な基盤を探るため、第3年度は文化比較を重点的に行う。対象国は日本、ノルウエー、オーストラリア、マレーシアの計4カ国の比較となる予定である。平成28年度からノルウエーでのデータの取得はすでに始まっており、オーストラリア、マレーシアでのデータ取得の準備も進んでいる。平成29年度からオーストラリア、マレーシアでのデータ取得を開始する。これについては先方との打ち合わせも綿密に行われており、共同研究先へこちらから訪問したり、先方が申請者の研究機関を訪問したりするなど緊密なコミュニケーションの元、共同研究を進めている。このような生産的な関係が今後の共同研究を成功に導くと考えている。本研究における仮説、すなわち、作り笑いによる裏切りシグナル隠蔽仮説」は、文化に共通した基盤を想定するものである。そのため、文化に関わらず一貫した結果が得られると予測される。 加えて、表情データの詳細な分析をこれから行っていく。これにについて、表情筋の動きをEkman らのよるFace Action Coding System (FACS)の基準によりコード化しすでに着手しており、分析が進んでいる。この分析は現在軌道に乗りつつあり、来年度にはそれらをまとめ成果として出版にこぎつけることができると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験準備と打ち合わせのため、ノルウェーの共同研究機関であるUniversity of Osloに出張予定であった。しかしながら、共同研究者であるUnivresity of Oslo 教授 Bruno Laeng が来日することになったため、打ち合わせと実験準備を日本で行うこととなった。そのため、本来支出予定であった申請者のノルウェーへの出張旅費を、共同研究者の滞在費のみに当てることができ、航空券などへの支出が不要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に計画しているノルウェーでの研究打ち合わせとデータ分析の期間を若干延長し、そのための渡航費として使用する。
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