研究課題/領域番号 |
15K04190
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 協調行動 / 感情 / 表情 |
研究実績の概要 |
平成29年度は裏切り者検出における表情の役割について進化的基盤を調べるため、交渉場面で他者に向ける表情に関する国際比較を行なった。ノルウェーのオスロ大学に滞在しデータを取得しただけでなく、ノルウェーから共同研究者を迎え研究を実施した。このような緊密な関係に基づいた実験の結果、文化やエスニシティにも関わらず、信頼感の情報処理に関して一貫した傾向があることがわかった。この結果は信頼を獲得するための表情表出やその解釈に文化普遍的な基盤があることを示唆する。この成果の一部は平成29年5月に開催されたThe 18th General Meeting of European Association of Social Psychologyで発表された。現在、この結果について論文化を進めており、平成30年度に国際的な学術雑誌に投稿する予定である。 また、初年度から行ってきた研究成果の公表も進んでいる。平成29年度には、顔の信頼感における左右差について比較的日常事態に近い条件で比較した実験結果をまとめたものが国際的な学術雑誌であるLateralityに論文として掲載された。この論文では交渉によって自分や相手が受け取る報酬が変化する社会ゲームの一種である信頼ゲームを用い裏切り者と協調者を決定した。そして、顔の右側を実験参加者に提示した時、裏切り者の見た目の信頼感が協調者よりも低くなる、すなわち裏切り者が検出できることが示された。一方、顔の左側を提示すると裏切り者と協調者の見た目の信頼感の値は変わらず、裏切り者の検出ができないことが示された。すなわち、顔の右側に信頼感に関わる情報が存在することが示唆された。このほかにも信頼感と強い関係のある喜びの表情表出に関する左右差の研究がLateralityに採択され現在印刷中である。最終年度に向けて、研究成果の公開は順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は国際比較のため必要なデータを取得した。海外の研究機関との連携が必要なデータ取得には、多くの場合、予想しなかったトラブルがついて回る。今回の研究では、申請者が相手国であるノルウェーのオスロ大学におよそ10日間、共同研究者であるオスロ大学のBruno Laeng教授が申請者の所属機関である専修大学におよそ1ヶ月、Laeng教授の研究室の研究員でありノルウェーでのデータ取得にあたり中心的な役割を果たしてきたSamira Aminihajibashi博士がおよそ1週間滞在した。このように時間をかけて滞在し、綿密な打ち合わせと確認を実地で行なった結果、多くのトラブルを回避することができた。また、クラウドソーシングによるデータ取得を行うことで、比較的簡便に様々な文化、エスニシティーにまたがる参加者からデータを得ることができた。これも本研究におけるポジティブな要素であった。 研究成果の公表も上述の通り進んでおり、平成29年度は2編の学術論文を査読のある国際的な学術誌に英語論文として発表した。国際的学会での発表もこの研究に関わる内容で4件行なった。このような成果から、本プロジェクトは順調に研究成果の公表がなされていると判断できる。研究計画に沿って行なった実験から派生するかたちでのプロジェクトも始動しつつある。このような波及効果も含めて、全体に見て研究の進捗状況は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は今回の計画の最終年度となる。したがって、これまで3年間で積み重ねた研究成果の総まとめを行うと同時に、それらの公表に全力を挙げる所存である。国際比較を行なった研究については現在論文化を進めており、近々国際的な学術雑誌に英語論文として投稿をする予定である。相手のあることなので採択時期などに未確定な部分も多いが、ハイ・インパクトファクターの学術雑誌に採択されることが期待される。また、これらの研究のビジビリティを高めるため、採択の暁には論文をオープンアクセスにする予定である。さらに、追加のプロジェクトを行い、今年度もその成果を国際学会で発表する。 論文化をすることで、専門家への研究成果公開を進めるとともに、非専門家への公開の準備を行う。具体的には今回の研究プロジェクトについて紹介するwebサイトを申請者の大学内にあるwebサーバーに設置する。このwebサイトについて、広く周知すると同時に、個々の研究成果を広く発信するため、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどのソーシャルネットワークサービスを用いた情報発信も積極的に行う。申請者は現在ツイッターにおいておよそ2500件のフォロワーを持つ。そのためそこからの情報発信によって広く周知が可能であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、執筆中の論文がいくつかあり、平成29年3月中にそれが書き終わった場合、英文校閲料として使用するため、1件5万円×2=10万円程度を前年度の予算において年度末まで確保をしておいた。残念ながら、論文執筆が予定より遅れ、その使用を次年度に持ち越すこととなった。本研究は予算の決定が当初の予定より半年以上遅れたため、進行が計画よりも少しずつ遅れがちであった。最終年度を前に、おおよそその遅れを取り戻したものの、研究の最終段階である論文の執筆については、それが十分でなく、そのための予算執行が若干遅れることとなってしまった。この次年度使用額については、英文校閲料として使用する予定である。
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