研究課題
認知症は症状の進行とともに自らの意思や感情を表出することが困難となるが、このような状態であっても内的体験は存在するのであろうか?本研究では、認知症患者の内的体験は保たれているが、それを適切に表出する手段が障害された状態であると考えている。このような立場から、本研究は心理学的な手法を用いて、認知症患者の内的体験(意図性や主観性)を把握・顕在化することを目的とする。平成27年度は患者の全体像の把握と重症度ごと、および病理背景ごとの差異を明らかにするために、認知症患者の家族や介護者を対象にした質問紙調査を実施した。質問紙は各種の行動変化について尋ねる48項目から構成され、認知症の発症後と認知症の発症前にどの程度の頻度で行動が観察されたかを尋ねる形式で構成されている。この質問紙をアルツハイマー病(健忘型、失語型、失認型)、前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症)、皮質基底核変性症の家族や介護者294 名(含む手渡し33名)に対して送付し61.3%から回答があり、欠損値などを除き、最終的に177名の結果を分析対象とした。分析は発症後の変化から発症前の変化を差し引いた差分を指標として用いた。48項目のうち“正の変化”とみなせる19項目に因子分析を行ったところ、3因子が抽出され、さらに3因子の構造を検討し各因子に2つ下位要素(①感覚因子(感覚過敏/細部に過敏)、②認知因子(言語活動/視空間活動)、③社会因子(向社会性/音楽自活動)が含まれることが明らかとなった。また症例によっては差分が正の値を示す(発症後に多くの行動を認める)ことが確認された。結果から、認知症患者は、たとえ症状が進行しても行動変化の中には正の変化が生じる可能性があり、行動変化は感覚、認知、社会・情動の各領域で生じることが示唆された。次年度以降、重症度別、疾患別に差が認められるか検討を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
認知症患者の内的体験、特に主観性の変化が生じるか否か定量的に把握するために質問紙調査から開始することとしたが、オーストラリア・シドニーのNeuroscience Research Australia (NeuRA)のHodges教授やPiguet准教授らの協力を得て、多くの前頭側頭型認知症の家族や介護者にコンタクトを取る事ができたことで、大規模調査を実現することができた。その結果、主観性の変化を捉えることに成功しただけではなく、疾患によって異なった変化が生じる可能性が示された。これらの結果は当初は想定しなかったことであるが、今後の研究の進捗に大きく寄与することと思われる。
得られた調査結果にもとづいて、引続き疾患ごとの分析を進めるとともに、他のデータ(神経画像データ、神経心理学的データ)との関連を検討する予定である。
初年度にアイトラッカーを用いた実験を実施する予定であったが、質問紙による調査が予想以上の成果を出したことから、平成27年度はこれらの調査を重点的に実施することとしたことによる。
実験については次年度以降に実施するため、アイトラッカーは平成28年度に購入する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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