本研究は認知症の状態像について、認知機能の低下だけではなく、残されている機能に着目して検討を行ったものである。これまでアンケートや認知機能検査において、残された能力について検討を進めてきたが、最終年度は、コミュニケーションが著しく困難であり、意思の表出も限定的な重度認知症の方々を対象として、視線を通じた機能把握を目指した検討を行った。視線計測にはウェアラブル型の視線計測装置であるTobiiグラスを用いて、訓練や教示を必要としない選好注視法による検討を行った。選好注視法は、乳幼児や大型類人猿に対しても実施されてきた歴史があり、コミュニケーションが限定的な重度認知症の方々においても実施可能性が高いと考えられた。研究は、いわゆる寝たきり状態で能動的な意思表出が困難であり、GDSが7に相当する10名を対象に実施した。その結果、10名中5名で対象への注視を認め、視線の計測可能性が確認された。また5名中3名で明らかな視線と提示した刺激との関連性を記録することが可能であり、3名とも実際の人物を対提示することで、視線方向に依存しない形で、対提示された人物の性別や年齢などに対する選好を確認することが可能であった。ただし選好には一貫性を認めず、対象によって異なっていた。また3名中1名では、モニター上に提示した刺激に対する選好や視線を計測することも可能であった。さらに施設介護者に対するアンケート調査を行ったところ、視線が認知機能を反映することを理解するなど、認識の変化を促す結果となった。
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