研究課題/領域番号 |
15K04192
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
作田 由衣子 実践女子大学, 生活科学部, 講師 (30454078)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会的認知 / 発達 / 信頼感 |
研究実績の概要 |
本研究では、印象知覚メカニズムがいつどのように獲得されるかを明らかにすることを目的とする。まず、生後1年以内の乳児は印象が知覚できるかを検討するため、乳児にとって最も重要と思われる信頼感の印象について、5-8ヶ月児を対象に実験を行った。実験では、言語による教示のできない乳児に対しては選好注視法を用いて、印象が相反する顔同士を対提示し、どちらをより長く見るかという注視行動を指標として印象の異なる顔に対する選好が見られるかを検討した。画像はTodorovらの作成したデータベース(Todorov & Oostenhof, 2008)に基づき、特定の印象のみが操作されていることが確認されているものを選定した。 信頼感の高い顔と低い顔を対提示し、両者への注視率を比較したところ、2つの顔がどちらも優位性(Dominance)が高い場合には信頼感の高い顔を選好したが、優位性が低い顔同士の場合はそのような選好は見られなかった。つまり、乳児は信頼感が高くかつ優位性が高い顔を好んで注視することが明らかとなった。この結果より、生後1年未満の乳児でも信頼感という社会的に重要な印象の知覚が可能であることが示唆された。これは今までの研究では報告されていない全く新奇なものであり、社会的認知の発達を理解するうえで重要な知見といえる。 得られた成果についてまとめ、2015年5月のAssociation for Psychological Scienceの年次大会において発表を行った。さらに、論文を執筆し、現在、国際学術雑誌に投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、人物が「信頼できるかどうか」という社会的認知が発達の初期に獲得されている可能性を示唆するという重要な知見が得られた。初めに立てた仮説の通り、乳児が信頼感の高い顔を選好するという結果が得られたため、研究はおおむね順調に進展していると考える。今回は論文の掲載には至らなかったことから、「当初の計画以上に進展している」とは言えないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、信頼感の高い顔と低い顔を上下逆さにして対提示(倒立提示)し、乳児がどちらを選好するかを検討する。倒立提示することにより、顔の全体情報の利用が阻害されるため、印象が知覚しにくくなると考えられる。もしこの実験で選好が見られない場合は、乳児も成人と同様、顔の全体情報から印象を知覚していることが推測できる。実験には、1つ目の実験と同様の刺激画像および手続きを用いる。 さらに、発達過程のどの段階で印象の知覚が形成されるかを詳細に検討するため、より高月齢から幼児期の子どもを対象として同様の実験を行うことを計画している。そのためには周辺地域の幼稚園あるいは保育園などに協力を求める必要がある。所属する学科の幼児保育・小学校コースの教員等に情報を提供していただくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度より所属を異動し、新しい環境で実験設備などを整える必要があったため、研究の開始が想定よりも遅れた。なお、参加を予定していた学会出張が、急きょキャンセルになったことなどから、想定していた出張旅費も使用されなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き研究環境の調整(設備備品の購入)を行うとともに、実験を実施した際に実験参加者や協力者への謝礼として使用する。実験参加を呼びかけるためのチラシの印刷や広報費などにも使用することを計画している。
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