研究実績の概要 |
2015年度は、研究員が以前行った恐怖表情に対する自動的な注意捕捉効果に関する研究(Ikeda, Sugiura, & Hasegawa, 2013)をもとに、ほぼ同一のパラダイムを用いて、同様の効果が笑顔と怒り顔についても生じるかを検討した。参加者には単純な視覚探索課題が課され、課題関連刺激と同時に、左右視野のいずれかに表情顔が、他方に中立表情顔が呈示された。予測としては、課題とは無関係に提示された顔表情が注意を捕捉し、N2pcと呼ばれる脳波成分が観測されると考えられた。第一実験では恐怖顔と中立顔のペアを用いて先行研究の追試を行い、第二実験では、笑顔と中立顔、怒り顔と中立顔のペアを用いて検討を行った。また両実験で、ペアの顔両方が同一人物の場合と、異なる人物の場合の2条件間でも比較を行った。 結果、予測通りN2pcに類似したERP成分を観測することに成功したが、必ずしも頑健と言えるデータではなかった。先行研究と同様に、表情顔に対するN2pcは極めて微細であったが、先行研究とほぼ同様のデザインで測定されたにも関わらず、今回の測定結果は比較的不安定なものであった。このことは、表情顔に対して生じるN2pcが、必ずしも先行研究で報告されたような安定したものではない可能性を強く示唆している。技術的に最も大きな問題と考えられたのは、確かにN2pcが予測される時間帯(刺激提示後170-270 ms)に陰性方向への電位差が確認されるものの、それが本当にシグナルとして、ベースライン区間(刺激提示前100 ms)において観測されている自発的なノイズから区別されるかどうかという点である。今後はpermutation法(Sawaki, Geng, & Luck, 2012)などを用いて、統計的手法にシグナルを分離するか、あるいはより効果量を大きくする実験デザインを検討する必要があると思われる。
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