本研究では、信頼できると評定された顔刺激が注意を自動的に引くのかについて、脳波の指標のひとつである事象関連電位(Event-Related Potential: ERP)を用いて検討することを目的とした。しかしながら、研究遂行にあたって、ERP測定の信頼性についての問題が生じた。すなわち、目的とする注意効果は極めて微細であり、それを高い信頼性を伴って測定するためには、現状のERP測定技術並びにその統計的な処理についてさらなる研究を進める必要が生じた。本年度は、この問題のうち、特に研究計画法ならびに統計学に関する部分に関して理論的な研究を進め、事前登録制度を伴う再現可能な研究方法の確立に努めた。具体的には、ERP測定に限らず一般的に、多種の指標を用いて認知現象の測定を行う際に生じる多重比較の問題を解決するため、予定する統計検定を列挙し、データ取得前にその検定方法の詳細を一般に公開された事前登録システム(e.g. Open Science Framework)に登録することによって、本来は存在しない効果を存在すると報告してしまう「第一種の過誤(Type I Error)」の確率を、科学的に適切な範囲であると考えられている5%以下に抑える方法を採用し、その実施に努めた。この手法と、近年開発された mass univariate analysis の手法を同時に用いることで、問題の一角である多重比較については、根本的な解決を試みることが可能となった。
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