当年度に関しては,計画とかなり異なった方向で研究を行わざるを得なかった.心理測定尺度のために,単純構造を目指す探索的データ分析の方法を開発するという目標は変わらないものの,この年度内に現実に取りくまなければならなかったのは,社会調査データであったので,方法もその方向が強調されることになった. 一番大きな成果は,昨年度に「データ分析の理論と応用」誌に掲載された「正規直交多項式主成分分析」を,より一般的な社会調査における質問項目を含めて分析可能な方法を拡張したことである.カテゴリー間に自然な順序が存在しない場合については,重み行列の左右からの直交回転を行うが,実データによってこれがほぼ確実に一意の解に収束することを確認した.このような方法が原理的に可能であることは,先の論文刊行時にもわかっていたが,現実に単純構造化されたパターン行列の解釈を,それぞれの数量化された変量の意味を参照しながら行わなければならないため,大変使い勝手が悪かった.この問題は,自然なカテゴリー間順序のある項目については,正規直交多項式による数量化によって部分的に解決され,かなり実用に耐える方法になった. この種の方法による経験的事実に関する成果としては,形式的には同じ5段階評価型の項目であっても,事実を問うものと主観的な評価を求めるものでは,全く数量化次元の性質が異なってくることが繰り返し確認できたことである.後者には,明らかな反応傾向(極端反応)の個人差が反映し,それは心理測定が目指す個人のアセスメントにおいては,今後十分に考慮されなければならない問題になると思われるし,社会調査においては,むしろ除去すべきアーチファクトとみなされるであろう.
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