視覚的注意は状況に応じて変動する。これを示す現象の一つが比率一致性効果である。この効果は,刺激反応適合性課題(ストループ課題,サイモン課題,フランカー課題)から観察される適合性効果の変動をさす。具体的には実験ブロック内の一致試行が多くなるにつれ,適合性効果は大きくなる。 比率一致性効果のラテラリティを検討することが本研究の目的の一つである。サイモン課題を使って,一致試行出現確率を操作した際に,右視野呈示条件時のサイモン効果が大きいことが明らかとなった。しかしながら,比率一致性効果のラテラリティは見られなかった。 比率一致性効果の生起機構を明確にすることも本研究の目的であった。特にS-S競合課題(フランカー課題やストループ課題)とS-R課題(サイモン課題)において,比率一致性効果の生起機構の差異について4つの研究を実施した。渡辺・吉崎(2017a)では,同一課題を,空間ストループ視点,水平サイモン視点でそれぞれ分析することで,2種類の課題から生起される比率一致性効果の生起機構が互いに独立していることが示唆された。Watanabe & Yoshizaki(2017)並びに渡辺・吉崎(2017b)では,サイモン課題における比率一致性効果は,特定の刺激とそれに対応する反応の頻度で決定され,視覚的注意の反映ではない証拠を提供した。 反応するキーの距離の適合性効果(ストループ効果並びにサイモン効果)への影響を検討した(渡辺・吉崎,2018)。反応キーの距離が影響するのはサイモン効果だけで,このことからも,S-S課題とS-R課題から観察される適合性効果の生起メカニズムの違いが示唆された。最後は,他者とフランカー課題を共有する事態で,他者の一致試行出現確率に応じて,自身の適合性効果が変動することを明らかにした(Kimura & Yoshizaki,2017)。これは,他者の課題表象(刺激-反応マッピング)を共有したためだと考えられた。
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