研究課題/領域番号 |
15K04200
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
則武 厚 関西医科大学, 医学部, 助教 (80407684)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 報酬 / 自己と他者 / 視床下部外側野 |
研究実績の概要 |
霊長類の環境への適応学習は、これまで主に一個体内で論じられてきた。このため他者が関わる社会環境において、自己の報酬情報処理の神経機構は未だ不明である。特に、皮質下における他者の報酬情報処理に焦点を当てた研究は非常に少ない。そこで本研究では、視床下部外側野に着目し、他者の報酬情報が自己の報酬情報にどのように影響を与え、期待行動へと反映されるのかを神経生理学的手法により検証することを目的として行われた。 まず二頭のサルを対面して座らせ、自己と他者が得られる報酬確率を操作した古典的条件づけを行った。条件づけでは、二頭のサルに異なる報酬確率を同時に知らせる視覚刺激をいくつか呈示し学習させた。結果、サルのリッキング(舐め行動、licking) という期待行動が自己の報酬確率が増加すると多くなり、さらに他者の報酬確率が増加するほど減じることを確認した。これらの行動はサルの主観的価値を表現している考えらえる。次に、一頭のサル視床下部外側野から単一神経細胞活動を記録したところ、自己・他者の報酬確率を知らせる刺激呈示直後は、自己の報酬情報を表現する細胞が多く発見された。そのうちの1/4ほどの細胞群が他者の報酬情報をも含んだ主観的価値を表現していることがわかった。しかし他者の報酬確率のみを表現している細胞はほとんど認められなかった。また刺激が消失する直前には、自己の報酬確率のみを表現している細胞だけではなく他者の報酬確率のみを表現している細胞、さらに主観的価値を表現している細胞が多く発見された。これらの結果は視床下部外側野が表現する報酬情報が時間軸において異なることを示している。今後、これら報酬情報の統合や主観的価値の生成がどのように行われているかを明らかにするため、サルもう一頭からの記録と薬理学的実験を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、自他の報酬確率を操作した古典的条件づけを一頭のサルに行い、視床下部外側野における単一細胞外活動を記録した。自己の報酬確率が他者の報酬確率により影響を受けることを行動として確認し、視床下部外側野において、自己および他者の報酬情報がどのように表現されているのかを明らかにした。これらの結果をH28年度の神経科学大会および北米神経科学大会に発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらにもう一頭のサルに対して自己と他者の枠組みにおける古典的条件づけを行い、視床下部外側野から細胞外活動を記録する。また、視床下部外側野の細胞活動が実際に期待行動に寄与しているかを確認するため、薬理学的手法・GAVAA受容体の作動薬ムシモールを視床下部外側野に注入することによりそれらの細胞活動を可逆的に不活性化し行動の変化をみる。得られる結果は、国際学会および論文として発表予定をしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数個所における同時記録を行うために購入予定であったマニピュレータを使用せずに実験を行ったため、また電極の自作によりタングステン電極購入本数が減少したため。
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次年度使用額の使用計画 |
H28-29にかけ、サルの神経活動記録・薬物注入を行いながら目的の視床下部外側野からの神経活動を記録する行う予定であるため、近接した距離で複数の電極を操作できるマニピュレーターを購入予定である。また予備のタングステン電極を購入予定である。
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