研究課題/領域番号 |
15K04206
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
高橋 亜希子 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (90431387)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高校 / 困難校 / 発達支援 / 授業 / 授業研究 / 自己形成 / 社会 / ナラティブ |
研究実績の概要 |
本研究は、北海道A高校の201X年入学生を対象に、主に社会科の授業を中心に、学習-発達支援のカンファレンス”を3年間継続して実施し、その意義を検討するものである。“学習-発達支援のカンファレンス”とは生徒の日常生活の中での問い、生活感情、社会への疑問、心理発達的な課題と重なる主題、題材での授業を構想、実施し、その後、クラスの学習状況、関係性の変化、生徒の変化を他実践者・研究者と共に検討し、見とりと省察を行いながら授業を実施していく、教科学習と生徒の発達支援を結び付ける試みである(池田, 2002)。 本研究は、教育困難校の生徒への学習を通した発達支援を目的としたものである。高校の教科の学習内容は、生徒の関心・発達課題と連携可能なものが多く存在する。思春期は「自己の問い直し」が可能な時期でもある。情緒の安定、他者への信頼、自尊心の回復など、人としてのコアを安定させることが生徒の自立において必要である。その作業は心の内だけでなされるのではなく、社会認識と、外界の意味を得ることで促される(高橋, 2009)。本研究は、生徒の内面的な課題と授業の内容を可能な限り繋ぎ、生徒の発達支援に資する高校の授業の試みの意義があると思われる。 2014年A高校入学生に対し、すでに授業の実践とカンファレンスを開始しており、2014年は現代社会の授業が対象であった。2015年は世界史の授業、2016年は日本史の授業が対象となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年は、主に2014年の現代社会での授業実践に関して、9月に行われた北海道臨床教育学会(札幌)、10月に行われた日本教育方法学会(岩手大学)において、研究報告を行った。生徒の書いた授業の感想の分析を通して、現代社会での「青年期」の単元で取り上げられた題材が、生徒の自己表現・自己表出を促し、対人関係の不安の解消に繋がっていったことを確認することができた。また、小・中学校と友人関係を十分に築くことができなかった生徒にとって、教科通信はコミュニケーションのツールとなり、互いの内面の共通性に気付く契機となっていた。 2015年度は世界史の授業を継続して観察した。1年生の現代社会と違い、世界史は学習事項が多く、また西洋近代史などは生徒の馴染みも少なく、1年生のときよりも自身の内面の感情を記述することが少なくなった。また、数名の生徒が不安定さを示し、授業の成立が困難になったり生徒同士のトラブルが生じたりした。授業を通した発達支援の限界を感じる1年だったと思われる。 しかし、2015年8月に3名の男子生徒にインタビューを行った際には、高校入学後の変化について「積極的になり、自分の意見を言えるようになった。」「好き嫌いじゃない友人関係になった」「人前でも大きな声をだせるようになった」「自分のことを言えるようになった」「人との関わり方が上手になってきたと思います」など、自己表現、ピア関係の形成、対人関係への自信が語られ、発達支援としての一定の成果があったのではないかと思われた。また、高校に対しても肯定的な感情を持っていることが感じられた。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は日本史の授業があり、また3年生の生徒の最終学年である。生徒の進路や職業の決定が主なテーマになると思われる。授業観察だけでなく、生徒へのインタビューを多く取り入れながら、生徒に対してA高校が果たした発達支援上の意義を明らかにしていきたい。論文化に関しては、A高校や生徒の同意を慎重に得ながら行っていければと考えている。
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