本研究課題は、ヘーゲル哲学のデューイ教育思想への影響の諸相を再評価し、中期・後期のデューイ思想形成の展開の見直しとデューイ教育理論のより善い理解を得るための枠組みや方法を探究することにある。この課題の遂行のために、(1)19世紀の米国におけるヘーゲル研究の水準の考察(2)デューイのミシガン大学、シカゴ大学時代の講義ノートの考察(3)実験主義期のデューイにおける「ヘーゲル主義的痕跡」の分析の3つの研究を並行して行うことであった。このうち、2018年度の課題は、本研究課題の中心であった未公刊のデューイの講義・セミナーのノート、受講生による講義録を第一次資料として、デューイがヘーゲル的な絶対主義的な観念から徐々に脱却し、いわゆる実験主義的な思考様式へと展開していったプロセスを確認すると共に、他方では、引き続きデューイがヘーゲル的な枠組みにおいて思索を続けていたと思われる論述も確認した。例えば、その実例として、デューイの名を哲学、心理学の学術的分野で不動のものとさせた1896年論文「心理学における反射弧概念」においても、刺激と反応、回路といった鍵概念の設定において、ヘーゲルの精神現象学における原因と結果の関連性に対する批判的考察を下敷きにしたと推察される論述を確認することができた。他方、デューイがミシガン大学時代、シカゴ大学時代の大学院のヘーゲルに関するセミナー他において、ヘーゲルの該当箇所について確かに論考を加えていたという裏づけを確認することはできていない。もとより、哲学思想の比較研究において、史資料からの実証的な研究は困難であるが、デューイの講義ノート他の分析において、引き続き考察を進める予定である。
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