本研究の目的は、現代のドイツ教育哲学における人間形成論的ライフヒストリー研究(bildungstheoretisch orientierte Biographieforschung: BOB)の動向と課題を、1.人間形成の概念規定、2.経験と規範(ないしは事実と当為)との関連の根拠づけ、という2点を中心に解明することである。昨年度までの作業を踏まえ、平成29年度は、BOBにおける経験的な事実と規範性との関連に重点を置いて検討を進めた。経験と規範との関連は、①人間形成の概念規定のレベル、および②経験的データの分析のレベルという2つのレベルで問題となる。BOBを主導するH.-Chr.コラーの「変容としての人間形成過程の理論 Theorie transformatorischer Bildungsprozesse」では、J.デューイにならい、さらなる変容を可能にする変容が人間形成論的に望ましいと見なされていることを確認した。 平成29年度には、これまでの理論的な検討を踏まえ、大学生を対象とする2件のライフヒストリー・インタビューを実施し、人間形成論の観点から分析と考察を行った。分析に際しては、コラーと並ぶBOBの代表的研究者であるL.ヴィガーの提唱する「人間形成形態 Bildungsgestalt」の概念を用いた。また、昨年度までの作業で明らかになった、非弁証法的な人間形成形態の再構成という観点からも分析を行った。分析の結果、「弱さに支えられた強さ」「自律のなかの依存」など、弁証法的発展の図式には収まらない人間形成形態が浮かび上がった。 今後の課題として、①インタビュー・データの人間形成論的な分析の方法論をさらに追究する必要があること、ならびに②分析の方法論と人間形成概念との関連をさらに検討していく必要があること、などがある。
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