研究課題/領域番号 |
15K04223
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
高橋 裕子 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30206859)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 学校衛生組織活動史 / 地方私立衛生会 / 新潟県私立衛生会 / 学校衛生研究会 / 大日本学校衛生協会 |
研究実績の概要 |
学校保健とは、学校での保健管理と保健教育を、学校全体で組織的に行う領域であるにもかかわらず、従来の学校保健史研究では、保健管理・保健教育にのみ焦点が当てられ、組織活動面については明らかにされていない。本研究では、明治16年に大日本私立衛生会が創設された頃、全国各府県で発足していた地方私立衛生会に着目し、その自治的・組織的活動が学校衛生にどのような影響を与えたのかを、機関誌を史料として明らかにする。それによって、新しい学校衛生組織活動史を素描する。当該年度の成果は次の通りである。 1.地方都市・新潟県の私立衛生会の機関誌『新潟県衛生会雑誌』には、(1)学校医による三島通良の発育研究の活用、(2)校医のトラホーム治療への論議、(3)教員から発信された衛生研修活動という注目すべき学校衛生の研究・活動が報告されていた。新潟県の一学校医が、三島の調査を参考に学校現場で発育研究を行い、新潟県私立衛生会の機関誌がその報告の場となっていた意義は大きい((1))。北魚沼郡の教員らが「某衛生家」を夏期講習会講師に招いて衛生問題を講究し、機関誌はこれを高く評価していた。西蒲原郡の衛生教育聯合幻灯会では、学校長が積極的に地域社会に出向きこの衛生事業に携わっていた。「教育衛生」の幻灯会には就学勧誘と清潔法の相乗効果があると認識されていた。これらは、地方私立衛生会と学校の双方向からの組織活動事例であり、学校衛生組織活動史の一端といえる((3))。 2.明治期後期~大正期、私立衛生会とは別に、学校衛生研究会と大日本学校衛生協会という二つの専門組織が創設されていた。それらの初期学校衛生専門誌には、もともと衛生は「科学の応用」だから「生理学及衛生」を普通教育で教えるべきとの衛生教育論や、「国民必須ノ教育」では病気・虚弱の「特殊ノ事情」を「顧慮」して教育すべきという、教育権保障の観点からの新しい学校衛生論があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.予定どおりの進捗で、全国の各府県の地方私立衛生会の機関誌の史料収集ができている。 2.当初、検討候補として、東北・関東方面の地方私立衛生会を予定していたが、史料調査を進めるなかで、京都・大阪という関西の都市部では、特色ある衛生会活動が行われていて、着目する意義は高いことがわかった。たとえば、京都では、学校医と学校歯科衛生に関して先駆的な活動事例があった。もともと近代京都の衛生活動は、衛生組合をつくり、それを基盤として普及されてきた地域である。今回、新たに、そのような自治組織も視野に入れながら、医師による京都府衛生会や学校医会のリーダーシップや組織的活動と学校衛生との関係を検討することで、都市部特有の学校衛生組織活動史の一端が明らかになることがわかった。 3.2.の課題を明らかにするための史料として、具体的に、①京都府衛生会の『京都府衛生会々報』、②『京都医事衛生誌』、③大阪私立衛生会『通俗衛生』の3つを特定し、概ね収集し終えた。また幸い、最近、近現代資料刊行会より、京都・大阪の近代衛生関係文書が復刻出版され(「近代都市の衛生環境(京都編)」全37巻、「同(大阪編)全42巻」)、そこに、上記①~③の史料を補完する府政・衛生関係文書群が含まれていることがわかった。近隣の大学図書館の所蔵の有無や、現実の閲覧のしやすさを勘案し、本研究に直接重要性の高い京都編の一部を本科研費によって購入した。 4.具体的に、地方都市部の新潟県私立衛生会を取り上げ検討を行った。それに加えて、【研究実績の概要】にも記したように、明治期後期から大正期には、私立衛生会とは別に、学校衛生研究会と大日本学校衛生協会が創設されている。初期の学校衛生専門組織として検討を行い、この組織が行った活動・研究内容を明らかにした。 5.4.での成果を、2つの学会で発表を行い、2つの雑誌において論文発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の史料収集については、概ね順調に入手できている。今後は、検討対象とする地域を順次特定し、史料読解と分析を行っていく。具体的には次の二点である。 1.【現在までの進捗状況】の2.に記したように、京都と大阪という都市部に着目し、地方私立衛生会のみならず衛生組合、学校医や医師による衛生関連団体にも注目し、そこでの学校衛生活動を分析する。史料は、【現在までの進捗状況】の3.に示したように、『京都府衛生会々報』『京都医事衛生誌』、大阪私立衛生会『通俗衛生』、府政の衛生関係文書(「近代都市の衛生環境(京都編)」、「同(大阪編)」)である。特に京都については、近代京都の公衆衛生や学校衛生を推進したと考えられる人物や(後に学校医ともなる遠藤大太郎、ほか)、学校歯科衛生という個別領域にも着目することで、都市部の学校衛生組織活動史という新しい側面が明らかになると考えている。 2.引き続き、既に検討した新潟県以外の、地方私立衛生会と学校衛生の関係を検討する。
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