研究課題/領域番号 |
15K04225
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西平 直 京都大学, 教育学研究科, 教授 (90228205)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ケア / スピリチュアリティ / スピリチュアルケア / ライフサイクル / ブータン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ケアとスピリチュアリティの関連を、次世代育成の視点を中心として、教育人間学的に解明することである。三年目は、以下のように実施された。 フィールド調査としては、ブータン王国調査を二回、実施した。尼僧院における尼僧への聞き取り調査と同時に、高校生を中心に「宗教観」の聞き取り調査を実施した。また転生の思想に関する研究報告を行い(Views of Reincarnation: the perspective of Bhutanese Youth, May, 8, 2017, Kyoto University)、ブータン王妃来学の際には、これまでのブータン研究の一端を発表した(Fateful and Unexpected Encounters :Researching Bhutanese Youth、October, 25, 2017, Kyoto University)。 スピリチュアルケア学会の学会大会長を務め、大会長講演を行い(「スピリチュアルケアへの敬意」、2017年9月10日、京都文教大学)、記念シンポジウムの企画・司会を担当した。 思想研究としては、ケアに関する論文集をまとめ(西平 直・中川吉晴共編著『ケアの根源を求めて』晃洋書房、2017年)、精神分析に関する対談を発表した(西平 直・松木邦裕『無心の対話‐精神分析フィロソフィア』創元社、2017年)。また、伝統思想における「ケア」と「霊性」を課題とした研究会を継続し、「ケアとスピリチュアリティ」の思想的基盤として「稽古」「無心」「修養」など日本の伝統思想の研究を継続した。その一端は、現在作成中の論文集の中で発表する予定である(『ライフサイクルの哲学(仮題)』東京大学出版会、2018予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、フィールド研究、思想研究の両面において、かなり順調に進展してきた。 フィールドに関しては、ブータン調査が予想以上に豊かに展開した。ある家族と深い信頼関係を結んだことによって、一挙に、現代ブータンの暮らしの中に入り込むことが可能となった。同時に、学校とも深いつながりができ、高校生たちへの聞き取り調査の機会が格段に増えた。また、ローデン財団のカルマ・プンツォ博士と親交が深まり、同氏をスピリチュアルケア学会に招き、ブータンにおけるケアとスピリチュアリティに関するシンポジウムを開催するなど今後のさらなる研究交流が期待される。 思想研究としては、スピリチュアルケア学会における活動が予想以上に充実し、「スピリチュアルケア」の実践者から多様な話を聴く機会に恵まれている。また来年度の掲載になるが、『スピリチュアルケア学会誌』に論文を依頼され、「ケア論から見たスピリチュアルケア」を書き上げ、先日投稿した。 思想研究による理論的整理については、「無心とケア」という課題のもと、「稽古」「無心」「修養」など日本の伝統思想の研究を継続し(例えば、「日本文化の中のマインドフルネス」(同志社大学Well-being研究センター、2018年3月29日、同志社大学)、海外の研究者との共同研究の機会も多くなっている(例えば、「keiko稽古and Shuyo修養‐self-cultivation in Japanese Philosophy」The Anthropology of Japan in Japan(AJJ),Ways of Becoming: the Anthropology of Education, Anthropology and Education & Anthropology in Education, 同志社大学、2017年、12月10日)。
|
今後の研究の推進方策 |
フィールド研究、思想研究の両面において、これまでの研究を継続してゆく。 まず、フィールドに関しては、ブータン調査を継続する。尼僧院の調査を継続することは当然であるが、同時に、一般市民が、尼僧(女性修道者)をどのように理解しているのか、いかなるイメージをもっているのかという観点について調査を重ねてゆく予定である。例えば、尼僧に「ケア」のモデルを求めている可能性が予想されるが、実際の聞き取り調査の中で、その状況を把握したい。 また、ブータンの伝統行事の中に、隠れた形で「ケア」の精神が潜んでいる可能性が高い。例えば、「コンパッション(慈悲・悲しみ)」の視点、あるいは、「生きとし生けるものを身内とする感覚」。ブータンの伝統文化における「ケアとスピリチュアリティ」に焦点を当てて、聞き取り調査を積み重ねてゆく予定である。 レデンプトリスチン女子修道院は、シスターたちの入院や高齢など困難が多く定期的な参与観察は難しい状況にあるが、その状況変化について聞き取り調査を継続する予定である。 理論的な基盤の研究としては、複数の企画が並行する。まず、ライフサイクル研究の領域でこれまでの考察をまとめる仕事がある。『ライフサイクルの哲学-教育人間学のリゾーム(仮題)』(東京大学出版会)として現在進行中である。また同じ領域をケアの視点との関連から一般向けに語り直す企画として、『人生の文法(仮題)』(岩波書店)も進んでいる。さらに、日本の伝統思想における稽古の問題を『稽古の哲学(仮題)』、同じく修養の問題を『修養の哲学(仮題)』として、ともに春秋社から出版の企画がある。いずれも、「ケアとスピリチュアリティ」の問題を整理するための基礎概念を整える作業となる。重ねてこれまで通り、西田哲学、井筒哲学の基礎研究を継続し、海外の研究者との共同研究の中で、研究を欧文(英語・ドイツ語)で発信する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017年度の使用額は計画に比べて少なくなった理由は次のとおりである 1)ブータン調査が一回しか実施できなかったこと(第二回調査は年度末3月に予定していたが、4月に延期したため2018年度の調査となる)。2)9月の調査において、本務校のブータンにおける任務と時期が重なったため、旅費の一部がそちらから支給されたこと。3)スピリチュアルケア学会大会にカルマ・プンツォ先生を講師として招聘するに際して、学会本部から、予定外の援助を受けたこと。4)レデンプトリスチン修道院の滞在調査が実施できなかったこと。2018年度には、ブータン調査を二回(ないし三回)予定しており、聞き取りに際しても「謝礼」の形で先方に協力を依頼するなど、多額な出費が予想されるため、計画的に、2018年度に持ち越すことにした。
2018年度の計画は以下のとおりである。1)当初、ブータン調査は年一回の予定であったが、日程など調整しながら、年二回(ないし、三回)計画している。二回分、約60万円を必要とする。2)万一、調査が実施できない場合、ブータンから研究者を招聘し、日本で研究会を開催するための、その経費が必要になる。3)ブータン調査の際、画像処理が簡単なデジタルカメラ、および、ポータブルなパソコンが必要になる。以上、研究費の多額な出費が予想される。
|