研究課題/領域番号 |
15K04225
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西平 直 京都大学, 教育学研究科, 教授 (90228205)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ケア / スピリチュアリティ / スピリチュアルケア / ブータン / ライフサイクル / 稽古 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ケアとスピリチュアリティの関連を、次世代育成の視点を中心として、教育人間学的に解明することである。四年目は、以下のように実施された。 フィールド調査は、二年前よりブータン王国に集中することにしている。当初は東欧諸国の女性修道院も予定していたが、結局、十分な関係構築に至らなかったため、ブータンに専念することにした。と同時に、ブータンにおけるつながりが年々豊かになり、フィールドを限定する方が効率的であると判断したためである。 2018年度は、二回、ブータン調査を実施した。一回目は、中部ブータン(ブムタン地方)を訪問し、小さな村(ウラ村)の伝統的な祭りに参加し、若者たちへの聞き取り調査を行った。二回目は、NGO「ローデン基金」の関連で、起業支援に関わる若者たちへの広範なインタビュー調査を行った。 とりわけ、起業支援(ソーシャル・アントレプレナーシップ)は大変興味深い動きであり、今後とも継続調査を続ける予定である。なお、こうした調査の一端は、「ブータンから見た「グローバル人材」」(『教育学術新聞』特集「教育哲学者が考える”グローバル人材“」2018年3月28日)として発表した。 思想研究の成果としては、二冊の著作の作成に当たった(出版は二冊とも2019年4月である)。まず、『ライフサイクルの哲学』(東京大学出版会、2019年)は、教育人間学的視点からライフサイクルの諸相を考察した論文をまとめたもので、ジェネレイショナルサイクルの問題をはじめ、ブータン調査の結果も含まれている。もう一冊は、『稽古の哲学』(春秋社、2019年)であり、稽古に焦点を絞りながら、人間形成の問題を考察した。前年の著作と深く関連しながら、「ケアとスピリチュアリティ」の思想的基盤として「稽古」「無心」「修養」など日本の伝統思想の研究を整理したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ケアとスピリチュアリティの関連を教育人間学的に解明することと目的とした本研究は、フィールド研究、思想研究の両面において、かなり順調に進展している。 フィールドに関しては、ブータン調査が予想以上に豊かに展開した。2017年以降ある家族と深い信頼関係を結んだことによって、一挙に、現代ブータンの暮らしの中に入り込むことが可能となった。また、NGO「ローデン基金」の日本支部として活動を開始したため、そのつながりが密になり、「ソーシャル・アントレプレナー」の動きを中心として、そのつど情報を得ることができ、また総合的な聞き取り調査が可能である。 思想研究の直接的な成果としては、『スピリチュアルケア学会誌』に掲載された「ケア論から見たスピリチュアルケア」が重要である。この三年間の調査を基礎に、理論的な整理を行った。 講演・セミナーなどでも研究の成果を発表した。ライフサイクル研究としては、「人生の文法-人生の中で「学生」とはどういう時期か」第56回全国学生相談研修会、基調講演、東京国際フォーラム、12月9日、「無心」の思想に関しては、「共創を促す論理‐to be or not to be, or neither, and both」、共創学研究会、共創学会主催、早稲田大学、10月28日、「無心のダイナミズム」、セミナー(松木邦裕氏との対談)、日本精神分析学会、京都・国立京都国際会館11月23日。 また、比較文化的視点からケアを考えてゆく過程で「甘え」の問題が浮上し、ドイツの研究チームと共同研究を開始し、講演を行った。Amae: one aspect of ‘I and you’ in Japanese Culture, ‘Japanese-ness’ in Transculturality : Family, Education and Society, TU Dortmund、3月1日。
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今後の研究の推進方策 |
フィールド研究、思想研究の両面において、これまでの研究を継続するとともに、最終年度は、包括的な総括を行う。 フィールドに関しては、ブータン調査を継続する。尼僧院の調査を継続することは当然であるが、同時に、若者たちのソーシャル・アントレプレナーシップについても調査を継続する。それは、隠れた形で「ケア」の精神が潜んでいる可能性が高いためであり、日常的な社会生活の中に見られる「ケアとスピリチュアリティ」に焦点を当てて、聞き取り調査を積み重ねてゆく予定である。 理論的な基盤の研究としては、複数の企画が並行する。まず、ケアに関連して、『無心のケア』と題した論文集を数人の研究者と執筆中である(晃洋書房、2019年秋予定)。また、稽古の思想に続く仕方で『修養の思想』(春秋社、2019年秋)も並行して執筆中である。さらに、『シリーズ近代日本の思想を読み直す・第13巻、身体』(東京大学出版会)の仕事も続けており、それらの仕事を横断する仕方で、研究論文「稽古・練習・Übung-翻訳の中で理解された日本特有の教育的伝統」『教育学研究』第86巻4号、特集・「日本型教育の海外展開」を問う(2019年12月刊行予定)を執筆中である。 最終年度は、理論的な整理を中心に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の使用額が計画に比べて少なくなった理由、および、2019年度の使用予定は以下の通りである。1)2018年度ブータン調査の日程が予定より短縮せざるを得なくなったため旅費に余裕が生じた。この旅費分は、2019年度の調査旅費に使用する。二回分、約60万円を必要とする。2)万一、調査が実施できない場合には、ブータンから研究者を招聘し日本で研究会を開催するための経費とする。3)最終年度のまとめに向け、出版社との打ち合わせのため、何度か東京に出張する。そのための経費とする予定である。
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