研究課題/領域番号 |
15K04228
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
大関 達也 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (80379867)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 哲学的解釈学 / 教養 / 対話 / 問い |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ガダマーの哲学的解釈学を中心とした一般教養の理論に依拠しつつ、学習者の問いを喚起する教養教育の可能性を提示することである。その主要な論点は次の二点である。一、グローバル化した社会で学習者が自ら問いを立て、その答えを模索していくための教養教育はどのような理念、内容、方法を持つのか。二、ガダマーが一般教養の教育の拠点として重視した一般教養講座「ストゥディウム・ゲネラーレ」(Studium Generale)の理念と実態はどのようなものか。本研究は、これらの点の解明により、異なる文化的背景を持つ他者と対話しつつ共生していく社会を実現するための教養教育の可能性について、理論と実践の両面から検討するものである。 二年目の本年度は、一年目に収集した情報・資料をもとに日本ディルタイ協会関西研究大会で「学習者の問いを喚起する教養教育の可能性―ガダマーの哲学的解釈学と一般教養論の検討から―」と題する発表を行い、同協会の学会誌『ディルタイ研究』第27号に論文を公表した。その後、ドイツ・ミュンスター大学教育学研究科のヘレカンプス(Hellekamps, S.)教授を訪問し、解釈学の新たな展開可能性について意見を交換した。さらに、ハイデルベルク大学図書館でストゥディウム・ゲネラーレの理念と歴史についての資料を収集し、マールバッハのドイツ文学資料館ではガダマーがストゥディウム・ゲネラーレに宛てた書簡を収集した。未公刊の遺稿を含むこれらの資料はいずれも日本国内では入手困難な貴重な資料である。これらの資料から明らかになったことは、解釈学が学習者の日常生活に対する鋭敏な感覚を養い、問いを喚起することに寄与するという点である。そのことが一般教養の理論と実践にもたらす意義は、自由と連帯を目指す対話という理念と、学際的な探究を可能にする文化内容と教育方法を検討することの重要性である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツでの情報・資料収集については、ハイデルベルク大学図書館でストゥディウム・ゲネラーレの理念と歴史に関する研究書や講義目録を収集した。さらに、マールバッハのドイツ文学資料館ではガダマーがストゥディウム・ゲネラーレに宛てた書簡を4通入手した。これらはいずれも一般教養の教育がどのような理念を持ち、それがストゥディウム・ゲネラーレでどのように実践されてきたのか、さらにガダマーの哲学的解釈学が一般教養の教育の理論と実践にどのようにかかわってきたのかを知るうえで貴重な資料である。 ドイツで入手した情報・資料は学習者の問いを喚起する教養教育の考察に次の点で寄与した。一、ガダマーの方法主義批判の意義と、哲学的解釈学と一般教養論における「自由と連帯を希求する対話」の理念が再確認された。それによって一般的に保守的であると批判されてきたガダマーに対する見方が修正され、ディルタイ以降の解釈学の新しい展開の可能性が示された。二、解釈学の研究実践によって養われる「精神の特別な繊細さ」は教養教育の文脈で重要な意味を持つことが示された。日常の現象に対する鋭敏な感覚を持つ学習者は自ら問いを立て、解釈学的対象と解釈学それ自体に対する批判的考察が促されるのである。三、それゆえ、解釈学的な研究実践を積み重ねつつ、学習者にとっての問いとなるようなテクストや事物を提示することが教養教育における重要な課題となる。しかし、学習者の問いはどのようにして喚起されるのか。学習者の判断形成を促す教授法はどのようなものか。こうした教授学的問題が未解決のまま残されている。このようにいくつかの点で検討すべき課題が残されているものの、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツ国内での情報・資料収集を継続しつつ、次の研究課題に取り組む。一、解釈学と教養の関係に関する考察を深めつつ、異なる文化的背景を持つ他者との対話という視点から教養教育の理論を発展させる。二、学習者の問いを喚起する文化内容を哲学的解釈学の観点から検討する。その主要な論点は、時代に典型的な鍵的問題を媒介する一般教養の構想とも異なり、コンピテンシー理論に基礎づけられた基礎教養の構想とも異なる一般教養論の可能性を提示することである。三、ストゥディウム・ゲネラーレの理念と歴史を検討することにより、教養教育における学際的な探究の意義を哲学的解釈学の観点から確認する。以上の考察から、学習者の問いを喚起する教養教育の可能性をより具体的に提案する。最終的な研究成果は報告書にまとめ、公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の図書が安く入手できたため、また、ドイツでの文献複写や移動にかかる費用が低く抑えられたため、残額26,195円が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額26,195円を加えた平成29年度請求分126,195円のうち、66,195円を図書購入費等の物品購入費として割り当て、60,000円を旅費に割り当てる。
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