研究課題/領域番号 |
15K04238
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 貧困児医療 / 救貧 / 医療化 / 家族 / 母役割 / 産み育てる身体 |
研究実績の概要 |
今年度は、史料の収集、整理などと共に、比較家族史学会シンポジウムでの研究成果発表と研究交流・議論を軸に進めた。 史料については、EEBO(Early English Books Online)が九州大学に所蔵され、以前より所蔵していたECCO(Eighteenth Century Collections Online)とともにデータベース内の史料も利用できることとなった。医者による子どもを含む医療実践記録、聖職者による医療救貧活動への寄付奨励説教、さらに博愛主義の活動家・篤志家による医療を含む救貧施策論なども、このデータベースに収められている。 成果発表は、比較家族史学会の2017年春季大会シンポジウムにて、18世紀に設立されたイギリス・ロンドン初の貧困児向けの無料診療所を対象に行った。当シンポジウムは、近代家族についての研究が積みあがってきたなかで、それを生きることができなかった家族の歴史を紐解き、改めて近代家族史と子ども、教育の問題を考えるという趣旨である。 無料診療所に通うことを期待された貧困層は、親、特に母親が専ら子どもの世話をするような子ども中心の近代家族の形とは無縁であった。しかし、小児医学の確立と、そのための若い医者の訓練場を必要とした医者が、貧困児のための無料診療所を開設する。乳幼児や子どもの健康に留意し、病気になったら診療所にきて医者にみせる習慣てそこでを貧困層に浸透させるために、受診の際の規則制定や家庭訪問などの工夫がなされるが、それは同時に、診療所を通した近代家族規範への接近であったといえる。 貧困層といってもその家族が総体としてどのような形だったのかを論じることは難しい。しかし、以上のような医療化の契機による家族規範の再構築について、シンポジウムで他の地域、時代の家族像と照らし合わせることで、さらに問うべき課題について議論を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
無料診療所を設置した医者による活字記録が残っており、それをもとに解明を試みた。貧困児医療の対象者、受け手の動きについては、なかなか史料的にも迫ることが難しい。 子どもの医療に際する医者の側の身体観については、子ども医療が忌避される理由から、類推することができた。しかし、母親、産み育てる身体の内実については、なかなかとらえどころがなく、解明が不十分である。より他の史料を渉猟する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
子ども向けの無料診療所のみならず、この時期は一般向けの無料診療所設立が取り組まれた。それらの設置や活動記録、診療記録などを突き合わせつつ、子育てや乳幼児医療、小児医学の分野で、親、特に母親の役割や身体像を見出すことが必要である。 なお、育児と地続きである産科医療にも視座を拡げる。無料の産院、つまり出産を対象とした救貧医療施設も18世紀中葉から数多く設立されたことがわかっている。既婚女性を対象としたもの、売春婦など、既婚の規範制約がないものなど様々存在していた。それらの診療記録などが入手できれば、産む身体の規範化について、貧困層において解明することができる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に計画していた史料調査が学内事情で難しく、研究成果が思ったように出すことができなかった。サバティカルが取得できたということもあり、今年度は調査と分析、研究の時間をとることができるとの判断で、旅費、物品費ともに計上した次第である。
|