本研究全体の目的は、シティズンシップ教育の中核理念の一つである「政治的リテラシー(政治リテラシー)」の概念を熟議民主主義論の観点から教育目標論・教育評価論・教育方法論の三つのレベルで実質化することにある。 この方針に基づき、平成27年度には、フィリップ・ペティットの共和主義論・熟議民主主義論の検討を行い、また、アンドリュー・ピーターソンの海外聞き取り調査を実施するなどの研究成果を得た。ただし、熟議の構成要素や制約条件などの詳細については、さらなる分析が必要であった。 そこで、平成28年度には、トム・ハリソンらの教育評価論を分析しつつ、前年度に残された検討課題についての探求を進めた。これらの検討を行う過程で、ジェフリー・ヒンクリフを日本に招聘し、東京と福岡の2カ所でセミナーを開催するなどの研究成果を得た。 平成29年度は、これら平成27年度・平成28年度の研究成果を踏まえ、共和主義のシティズンシップ教育論を探究するとともに、共和主義における熟議に関連させた教育方法の検討を行った。具体的には、 (1)アンドリュー・ピーターソンの徳論的共和主義教育論の教育方法に対する含意を検討した。ピーターソンは、近年、伝統的な"compassion"の概念に着目し、この概念を分析的に検討することで、徳論の現代的な形態を模索する。実際に、ピーターソンは、バーミンガム大学ジュビリーセンターなどと協力しながら、徳論に基づく教育(Character Education/人格教育)の普及をイギリスで推し進める研究者グループの主要メンバーの一人である。 (2)熟議による「選好の変容」について、共和主義の熟議民主主義論との関係から解明を進めた。特に社会科・公民科教育の教科教育における研究成果を利用しつつ、子供たちの話し合いにより政策やそれに付随する価値観がどのように変化するかに関して検討を行うなどの研究成果を得た。
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