研究課題/領域番号 |
15K04241
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
前田 晶子 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (10347081)
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研究分担者 |
武隈 晃 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (90171628)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | H.ワロン / I.メイエルソン / 歴史心理学 / フランス心理学 / 発達思想 / スポーツ教育 / 波多野完治 / 山下徳治 |
研究実績の概要 |
28年度の研究は、研究代表者がフランス国立障害者教育・指導方法高等研究所(INS HEA)に滞在して行ったことから、フランス心理学史の研究を中心に進めた。 ①フランス国立公文書館に所蔵されているH.ワロンとI.メイエルソンの二人の心理学者の資料を収集し、特に1910-30年代に彼等が取り組んだ精神医学の研究と実践について検討を行った。また、心理学のジャーナルを長きに渡って組織したメイエルソンの書簡類から、日本との交流の実態を明らかにすることが出来た。 ②パリ第8大学のH.ワロン研究者等との交流を行い、インタビュー等を実施した。その中では、ワロンを歴史研究の対象として位置づける新たなアプローチが見られ、歴史家の祖父と共に家族史の文脈で研究が進められていることがわかった。また、これまで不問とされてきた当時の研究者間の政治的関係についても検討が進んでいる。これらのインタビューから、ワロン研究を心理学史として進める構想を得ることができた。 ③スペインのI.メイエルソン研究者との交流を通して、メイエルソンとワロンの初期の同僚関係(サルペトリエール病院での診察活動)があったにもかかわらず、なぜ両者は1920年代には袂を分かつことになったのか、そこに「発達」を巡る思想的対立があったのではないかということが問題となり、本研究の3年目の研究課題として設定することとした。 また、研究分担者によって、1年目にまとめた報告書のテーマ(スポーツ教育の哲学的背景)についても検討が進められた。その成果は、日本体育・スポーツ経営学会第40回大会シンポジウム(2017年3月22日)「体育・スポーツ経営におけるフィロソフィの重要性を問う」(日本体育・スポーツ経営学会第40回大会号,p.2)で取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者がフランス国立障害者教育・指導方法高等研究所(INS HEA)に滞在したため、本研究の計画段階では実現が難しいと考えていたフランス心理学の歴史的研究について資料を収集することができた。その結果、当初はフランス心理学の日本への影響として波多野完治の役割の検討を研究の中心課題としていたが、フランス国内における心理学研究の展開について検討する材料が入手できたので、この点を3年目の総括に位置づけながら本研究を深めることができると考えている。 本研究は、戦後の日本の発達思想の展開について、それぞれドイツとフランスの影響を踏まえながら検討するものであるが、当初の計画では、両国における戦後の発達研究の展開について追うことは難しいと考えていた。しかし、1年目のドイツ調査、そして2年目のフランス調査を通して、各国の戦後史の総括や議論について研究者と交流することができ、研究枠組みについての吟味を行うことができた点は収穫であったと考える。 なお、戦後の発達研究の一つの潮流として、本研究ではスポーツ教育に注目しているが、計画ではドイツの影響を中心に検討を行う予定であった。しかし、28年度のフランス調査において、障害児教育におけるインクルージョンの実現においてスポーツ教育が一つの鍵とされていることが分かり、この点は総括段階においても現代的課題として位置づけたいと考えており、この点に研究の展開がみられたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は29年度に最終年度を迎える。総括に向けて以下のステップで進めていきたいと考えている。 1)1年目にまとめた山下徳治-ドイツ研究の報告書について、さらに論考を加えて出版計画に結びつくよう作業を進めていきたい。特に、戦後の山下が深く関わったカール・ディームとの論議を明らかにして、発達思想の一つの展開としてスポーツ教育の中心的課題を明確にする。その際、1年目にディームの日録などドイツ語資料を多数収集しているので、それらの翻訳と分析が中心的な作業になると考えている。 2)フランス心理学史と日本の発達研究について、2年目に収集した資料を中心に報告書にまとめる作業を進めていく予定である。特に、フランスの病理学的な発達研究の伝統が戦後のアメリカ心理学の影響の下でどのように展開していったのかを明らかにすると同時に、波多野完治を始めとした日本の学界の動向を追うことを中心作業とする。また、これらの研究成果は日仏教育学会などにおいて公表していきたいと考えている。 3)本研究の総括として、日本における戦前の発達論争(1930年代)が戦後の社会体制の中でどのように引き継がれ、また変節していったのかについて考察を行う。また、2000年代以降に展開している戦後教育学に対する再検討の動向の中で、発達研究としての成果と課題を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は研究代表者がフランスに滞在して研究を行ったため、旅費が予定よりも少ない額となった。また、翻訳等のための人件費・謝金を予定していたが、執行することができなかった。結果として、書籍費など執行が可能な項目に限定しての執行となった。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度は、研究の総括を行う過程で、フランスから研究者の招聘を予定している。また、欧州で実施される学会への研究代表者の参加を検討しているところである。本研究を通して、国際的な共同研究を進めるための旅費に未使用分を充てたいと考えている。
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