研究課題/領域番号 |
15K04244
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
加藤 守通 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (40214407)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヒューマニズム / ギリシャ語教育 / クリソロラス / サルターティ / ヤコポ・アンジェリ |
研究実績の概要 |
まず、Weiss, R. (1977). Medieval and Huanist Greel, pp. 227-254を基礎的な資料と定め、以下の点を確認した。1)前クリソロラス期。クリソロラス以前にもフィレンツェにはギリシャ語教育の機会があった。1369年にシチリアからギリシャ語を知るピラト(Leonzio Pilato)が来訪した時である。しかし、彼の来訪はボッカッチョ以外のヒューマニストにはまったく影響を与えていない。ボッカッチョも、ギリシャ語に関心は持つが、上達はしなかった。 2)サルターティ(Coluccio Salutati)の影響。フィレンツェにおけるギリシャ語への関心は、サルターティによるところが多大である。彼は、ラテン文学の研究を通じて、ギリシャ文学の重要性を知ることになったのである。 3)アンジェリ(Iacopo Angeli)の活動。サルターティは、アンジェリを1395年にコンスタンティノポリスへ派遣する。その目的は、①ギリシャ語原典の取得 ②ギリシャ語の学習 ③当時名声を博していた知識人クリソロラスのフィレンツェへの招聘であった。 4)フィレンツェ招聘の実現。この件に関しては、クリソロラスによるしたたかな金銭交渉があった。 以上の点の中で、教育思想史の観点からとりわけ注目に値するのは、サルターティの思想である。ギリシャ語(それも古典ギリシャ語)を学ぶためには、古典ラテン文学の研究の深まりによって得られた精神の成熟が必要であったのである。さらに、アンジェリという比較的知られていないヒューマニストの重要性も明るみに出た。彼についても、今後さらに掘り下げていく必要がある。最後に、クリソロラスであるが、彼の教科書Erotemataには校訂版がなく、購入も不可能であることがわかった。このことは、今後の研究計画に影響を及ぼすことになるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
14世紀末におけるフィレンツェでのギリシャ語教育の導入の歴史的背景が具体化されたこと、その中でヤコポ・アンジェリという人物の存在が新たに浮かび上がってきたこと、この二点を達成したことで、今後の研究の方向性がいままで以上に明確になったことは評価できる。ただし、テロの問題もあり、渡欧を今回は断念することにした。また、クリソロラスのテキストに関して言えば、バイエルン州立図書館などがネットで公表しているものしかなく、ギリシャ語文字の印刷がいまのものともずいぶん異なり、予想を超えて難渋した。この点に関しては、今後の工夫が必要であろう。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に、サルターティ、アンジェリ、ブルーニといったフィレンツェのヒューマニストたちの書簡における関連箇所を翻訳し、ギリシャ語教育導入を可能にした精神の「成熟」の実体を明らかにする。 第二に、フィレンツェおよびローマ(状況によってはパリ)に行き、当該研究に関する資料収集と研究打合せを実施する。 第三に、クリソロラスのギリシャ語教科書Erotemataの解読を継続する。
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