研究課題/領域番号 |
15K04245
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
岩田 一正 成城大学, 文芸学部, 准教授 (70338573)
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研究分担者 |
平井 秀幸 四天王寺大学, 人文社会学部, 准教授 (00611360)
後藤 弘子 千葉大学, 大学院専門法務研究科, 教授 (70234995)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 少年院 / 矯正教育 / 教育史 / 聞き取り調査 / 更生的風土 / ライフヒストリー |
研究実績の概要 |
本研究は,日本の少年院の施設内文化である「更生的風土」がどのように形成されたのかを,昭和52年に発出された矯正局長依命通達に焦点を合わせて考察する歴史研究に取り組むものである。 今年度は,①少年矯正教育政策史研究,②旧職員ライフヒストリー研究,③各施設事例研究という三つの質的研究に取り組んだ。 ①の研究については,日本教育学会第75回大会(8月23日,北海道大学)において,現職の法務教官二名(一名は多摩少年院,一名は浪速少年院に勤務)を招いてラウンドテーブルを開催し,昭和52年の矯正局長依命通達発出以降の歴史的展開を当事者から伺うことができた。この準備のために,MLを活用して研究代表者,研究分担者,研究協力者が進捗状況を連絡し合うとともに,前述の法務教官二名を招いた研究会を,6月から8月に東京で計4回開催した。ラウンドテーブルには想定以上の参加者があり,本研究に関する示唆,助言を得ることができた。 ②の研究に関しては,昨年度までに実施した旧職員五名(少年矯正教育政策立案に関与したキイ・パーソン三名,現場に長く勤務した旧職員二名)の聞き取り調査の結果をまとめた史料集を刊行することができた(300部)。編集には,法務省矯正局少年矯正課の協力を得た。本史料集を聞き取り調査対象者,矯正管区,少年院,少年鑑別所,矯正図書館,その他の矯正教育関係者に寄贈したが,このことを通じて,本研究の研究成果の一端を社会に還元することができた。また,本史料集は,本研究の基礎史料として①・③の研究にも活用していくこととなる。 ③の研究では,前記した日本教育学会大会に合わせた研究代表者,研究分担者,研究協力者全員での帯広少年院の訪問,研究者それぞれによる他の施設訪問を通じて事例研究の可能性を探ったが,施設改修などの影響で文書資料が散逸,廃棄されているため,他の施設を対象とする事例研究の可能性を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,日本の少年院の施設内文化である「更生的風土」の形成過程を,①少年鑑別所研究,②旧職員ライフヒストリー研究,③各施設事例研究という三つの質的研究を通じて分析しようとするものである。 ①については研究代表者,研究分担者が史料を収集し,論文執筆作業に取り組んでいる。②については,本研究では旧職員五名に対して,それぞれ数回に渡って聞き取り調査を実施した。法務省矯正局少年矯正課の協力を得て,調査者と調査対象者が使用している用語,また両者の事実認識などについて確認する作業を経た上で,五名に対する聞き取り調査をまとめた史料集を,本年度末に刊行することができた。本研究の研究成果の一部である史料集は,社会に還元すべきものであり,調査対象者に加えて,少年院,少年鑑別所,矯正管区,矯正図書館,また矯正教育研究者に寄贈することができた。この史料集は,本研究の①―③の研究だけでなく,矯正教育研究の基礎史料となるものであり,当該研究分野の蓄積に貢献することができた。 ③に関しては,研究代表者,研究分担者,研究協力者全員で少年院を訪問したり,各研究者がそれぞれ少年院を訪問したりすることを通じて,施設関連の文書の保存状況等について確認する作業を進めたが,昨年度と同様に,少年院の建て替えの際に文書が散逸したり,廃棄されたりしている状況にあった。そのため,③の研究を継続するかどうかについて,各研究者が少年院を訪問を重ね,改めて検討している状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は日本の少年院の施設内文化である「更生的風土」の形成過程を,①少年矯正教育政策史研究,②旧職員ライフヒストリー研究,③各施設事例研究という三つの質的研究を通じて分析しようとするものである。 ①については,これまでの文献の調査収集,分析の結果,また②の研究の成果の一つである聞き取り調査の史料集から得られる知見を踏まえて,研究成果を学会発表や論文として公開していく作業を進めていくこととしたい。 ②に関しては,本年度刊行した史料集を踏まえて,聞き取り調査対象者である旧職員のなかから何人かについてライフヒストリーを記述し,その成果を発表,論文化していく作業に取り組んでいくこととしたい。 ③では,研究代表者,研究分担者,研究協力者が,年度の前半で矯正図書館やいくつかの少年院を訪問し,文書資料の発掘作業に取り組み,事例となり得る少年院の存在を確定する作業に取り組みたい。その作業を踏まえて,昭和52年矯正局長依命通達によって,少年院の「更生的風土」がどのように変容したのかを分析し,その結果を学会発表もしくは論文として提示していくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,矯正職員二名を招いた学会発表を行う予定で研究活動を開始し,その方々の旅費と謝金にかなりの金額を支出することが見込まれたため,図書資料の購入を控えていた。しかし,結果的に想定よりも旅費と謝金が少なくなった。また,矯正教育(史)関連の文献(古書を含む)で,本研究にかかわる新たな文献があまり刊行されなかった。以上が,次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,研究代表者,研究分担者,研究協力者が,これまでの研究成果をいくつかの学会で発表することを予定している。また,それぞれが少年院の訪問を何度か行うことを予定している。当初予定よりも,これらに関わる支出が増大すると想定できるため,生じた次年度使用額は,その支出に充当し,計画的に予算を執行したい。
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