本年度は、昨年度実施した新潟県立文書館における史料調査で収集した実科高等女学校の郡立・県立移管をめぐる地域間の誘致合戦に関する史料の分析と整理を中心に研究を進めた。これらの分析を進める中で、とりわけ佐渡郡で繰り広げられた実科高女の郡立移管、県立移管をめぐる金沢村と相川町による激しい誘致合戦の顛末に注目し、日本学習社会学会第14回大会(国士舘大学)で発表し、次のような考察を行った。町村地域の学校を郡立や県立に組織変更することは、町村立で学校を運営するよりも財政負担の削減につながることはもちろんであるが、それ以上に「町益」「村益」、言い換えれば「名誉心」や近隣町村との「競争意識」が大きく作用していたと考えられる。こうした「名誉心」や「競争意識」を充足させることこそが学校誘致の意義であり、今回とりあげた地域抗争の大きな原動力のひとつとなっていたことは間違いない。地域の女子教育発展もさることながら、このような「町益」「村益」を充たすためには、全村を挙げて政友会に入党し、郡会議員の身柄を監禁・争奪までした金沢村、芸者をスパイとして利用した相川町にように、目的達成のためには思想・主義をもかなぐり捨て、手段を選ばずに行動するという貪欲さがみられた。金沢村や相川町のような事例は、決してと祝なものではなく、程度の差こそあれ全国的に行われていたこともまた事実であった。 今後の課題として、他地域でも同様の事例が多数存在していたことを確認しているので、引き続き実科高女の郡立・県立への組織変更を切り口として、昇格や組織変更という目的を達成するための町村地域の動向・戦略・抗争などを調査・分析することで、近代日本の地域と学校をめぐる関係史を考察し、現代の教育問題対応への一助としたいと考えている。
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