平成30年度に行った内容は、以下3点である。 1、前年度に引き続き、大学の教職課程履修生を対象として開発したカリキュラムを実践し、受講生からのフィードバックをもとにカリキュラムの再構築を行った。具体的には、勤務先大学での授業科目「教育学特論」にて「多文化共生と教師の役割」というタイトルのもと実践を行い、その実証的検証を行った。 2、その一方で、本年度も、神奈川県内の公立小学校で現職教員を対象とするカリキュラム実践を行う予定でいたが、実施校の諸事情により実践が叶わなくなった。そこで、神奈川県内の別の公立小中学校計4校を訪れ、参与観察および学校長ほかの教員よりききとり調査を行い、子どもたちや保護者の多様性、教員研修に対する実践者のニーズ等、教師教育カリキュラムの開発にとって有効な示唆を得た。 3、本年度が最終年度であることを念頭に、多文化、共生、多様性をキーワードに、学校教育、教師教育の今後のあり方を構想し、論文としてまとめた(加えて、国際学会にて発表の予定)。具体的には、①多文化共生というヴィジョンのもとで教育実践を行うにあたり教師はどのような認識をもつ必要があるか、②日本の学校教育および教師教育において多様性(diversity)をどのように捉えなおしていく必要があるかについてこれまでの研究をふまえ整理した。 本研究を通じて、内外の先行研究(米国の多文化教師教育〔multicultural teacher education〕、日本における同和教育、人権教育等)をもとに多文化共生社会の実現に向けた教師教育カリキュラムを開発し、その実践と実証的検証をもとに理論と方法の視座を提示した。本研究は、日本において多文化共生のための教師教育カリキュラムの開発がほとんど着手されていないなか、教師教育者と研究者に対し実践と研究を展開するにあたって活用可能な基盤を提示したという点で意義がある。
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