研究課題/領域番号 |
15K04254
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
前田 一男 立教大学, 文学部, 教授 (30192743)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教員赤化事件 / 「二・四事件」 / 教育労働運動 / 信濃教育会 / 思想対策 / 信州教育 / 大正自由教育 / 1930年代 |
研究実績の概要 |
1 「裁判記録」の分析検討 前年度の文字起こしを完成させた「裁判記録」(「藤原 晃 陳述速記録」「河村卓公判速記」「小松俊藏公判速記」「西條億重公判速記」「福澤準一陳述速記」「矢野口波子被告陳述速記」の6人の検挙者に対する裁判官とのやり取りを記録した内容)を、共産主義思想(教育労働運動)への参加の動機・大正自由教育との関連・教員給与寄付ないし義務教育費国庫補助への言及と評価・信濃教育会への評価とその根拠・小学校での教育実践の自覚とその自己評価・天皇制への評価・「転向」の論理の観点から分析、検討した。 2 研究成果の発表 その成果の一部を教育史学会第60回大会(2016年10月2日 横浜国立大学)において、「1930年代「長野県教員赤化事件(「二・四事件」)」の研究」として口頭発表を行った。さらに、その発表内容に大幅な加筆をした論文として「長野県教員赤化事件(「二・四事件」)に関する研究(1)―1930年代教育史像の再構築のための研究視角―」を『立教大学教育学科研究年報第60号』に掲載した。 3 研究交流の実施 2017年2月26日に開催された「『二・四』に学ぶ長野・上水内集会」(長野県教育会館)に参加した。県内において18回目の開催で、長野・上水内地域に焦点化しつつ、この地域で「二・四事件」にかかわった村山英治と吉沢利男の個別検討が行われた。2017年3月13日には、信濃教育会館において、『長野県教育史』編纂にかかわり、信州教育に造詣が深い伴野敬一氏、土屋徳重氏、中村芳人氏と「二・四事件」に関する意見交換を行った。信濃教育会でも、各学校に「二・四事件」関係の資料確認を実施し始めたことなど有益な情報提供や関連資料の提供も受けた。 4 資料収集の継続 長野県立図書館、伊那市立図書館で、在地の新聞資料の収集を実施した。来年度も継続の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には「裁判記録」やすでに収集していた当時の新聞の翻刻が終了し、長野県での現地調査(諏訪市・松本市・長野市)において周辺資料の収集にも力を注いできた。平成28年度は、それらを踏まえて「二・四事件」の再評価を1930年代の教育史像の再構築の観点から検討した。その成果は、上記の通り、教育史学会において口頭発表をし、所属大学の紀要に論文として発表した。その点で、当初の研究計画に即して、ほぼ順調に進んでいる。 さらに研究テーマを深めていくために、以下の7つの分析視点へのアプローチが求められていると考えている。具体的には、(1)大正自由教育との「連続」と「断絶」の意味、(2)方法としての川井訓導事件との比較、(3)地域社会からの学校評価の意味と独自の人事行政の意義、(4)「事件」報道に果たす新聞の役割と機能、(5)国家主義的団体からの「二・四事件」への評価、(6)「二・四事件」における内務省警保局と松本学局長の役割、(7)満蒙開拓青少年義勇軍の送出過程における「二・四事件」の位置である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は最終年度となるので、以下の推進方策を予定している。 (1)所属大学の研究紀要に、上記分析視点のいくつかを含んだ研究論文を発表する。(2)長野県内発行の在地新聞の新聞記事から「二・四事件」関係の記事を収集整理し、必要と思われる記事については翻刻する。(3)高島小学校の所蔵資料「文献庫」に再調査を実施する。資料目録も作成したい。(4)裁判記録について、被告6名の遺族から承諾を得て、その内容を復刻できるような道筋をつくる。 そのうえで、(1)から(4)の内容を含む、研究報告書を2月に刊行したい。 また、戦後の「二・四事件」の評価は、信濃教育会と長野県教職員組合との対立がそのまま反映されている。前者が、「二・四事件」には極力触れようとはしないのとは対照的に、長野県教職員組合は、関連団体とともに実行委員会をつくり、その歴史的な意義を繰り返し問い直している。「二・四事件」については、現在まで歴史的に総括されずに来ているのである。そのような状況の中で、信濃教育会関係者および教職員組合関係者双方と研究交流を行い、「二・四事件」研究に新たな可能性を追求したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象者の都合により、調査旅行の日程が3月中旬となってしまったため、会計上の締め切りに間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
3月13日に信濃教育会での研究会および14日の長野県立図書館での資料調査を実施することが出来た。
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