研究課題
3年目にあたる本年度は、昨年度に行った研究成果を踏まえつつ、また最終年度での総括を意識しつつ、引き続いて①啓蒙批判のアクチュアリティの考察、②受苦的経験をめぐるユダヤ思想の精神的遺産の省察、③カタストロフィ経験に関する思想的蓄積の検討および聞き取り調査、④現代思想における潜勢力/形なきものの形態学/無力さ・弱さの思考に関する哲学的動向の分析という4つの研究軸にそって研究を遂行した。①については、ホルクハイマー、アドルノ、ハーバーマスを中心としたフランクフルト学派やU・ベックらの啓蒙理性をめぐる理論の検討、および技術的合理性をめぐる思想群のリサーチを行った。②についてはブーバー、レヴィナス、アーレント、アンダース、ヨナスほか〈アウシュヴィッツ以後の思想〉の調査および分析を進めた。③については、水俣病センター相思社での調査、石牟礼道子文学ほか〈水俣病思想〉のリサーチ、熊本・菊池恵楓園ほか関連施設での調査、鶴見俊輔のハンセン病への取り組みの分析などを行った。④については、アガンベンの思想分析のほか、水俣病言説、ハンセン病言説など病や受苦的経験をめぐる言説にみられる「弱さ」「無力さ」の契機を読み解いた。以上の調査および読解・分析は引き続き次年度以降も継続する予定である。なお、これらの研究の成果の一部を、教育思想史学会のシンポジウムや教育哲学会のラウンドテーブル、シェリング協会の研究例会、教職課程研究関連の研究会などで発表した。また、国際哲学雑誌、ドイツの学術図書、教育学テキスト、事典、児童教育雑誌、新聞など様々な媒体で本研究の成果の一部を公表することができた。付け加えるなら、本研究の成果を含む図書や英語論文などが刊行を待っている状態である。これらの成果を踏まえ、予定された計画や残された課題に取り組みながら、最終年度での総括へつなげていきたい。
2: おおむね順調に進展している
全計画の3年目にあたる本年は、国際会議への参加、国内フィールド調査、研究対象にかかわる関連イベントや学会参加をとおして、研究対象をめぐる研究状況を広くサーヴェイし、他の研究者と意見交換すると同時に、関連文献や資料の調査・収集・分析を行うことに力を注いだ。国際的な媒体や国内の多様な媒体で萌芽的な成果の一部を公表できたことに加え、4つの研究軸それぞれにおいて新しい知見や方向性への示唆を得られたことは、最終年度での総括作業の準備として有益であったと考える。なお、本年度は海外・国内ともにフィールド調査に当初の期待ほどには十分な時間と力を注ぐことが叶わなかったが、代わりに資料の読解・分析に時間と力を注いだ。この点は、最終年度の活動においてカヴァー可能であるし、またより重点的に力を注ぐ予定である。最終年度はすでに国際学会・国際会議において本研究テーマに関する部会企画や発表も予定されており、全体的に見ればここまでおおむね順調であると判断できる。自分のなかでさまざまにアイデアの拡散と収束が繰り返されており、主観的に判断すればこれは「よい状態」である。
特別な推進方策の変更の必要性は感じていない。初年度に提出した計画書に従って、4つの研究の基軸それぞれについて着実に課題に取り組みたい。
当初年度末に予定していたフィールドワーク調査等を次年度に繰り越したため。
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Tetsugaku: International Journal of the Philosophical Association of Japan
巻: 2 ページ: 207-227