研究課題/領域番号 |
15K04267
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研究機関 | 芦屋大学 |
研究代表者 |
三羽 光彦 芦屋大学, 臨床教育学部, 教授 (90183392)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全村教育 / 農村教育 / 教育自治 / 実業補習学校 / 青年教育 / 模範村 / 地域教育 / 産業教育 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、三重県(30年9月)、北海道(30年10月)、広島県(30年12月)、千葉県(31年1月)、徳島県(31年1月)、神奈川県(31年2月)を調査した。その成果の一部は『三重県史』(近現代編2)の教育関係記述として論文化した。①三重県では研究代表者が県史編さん事業にかかわり、県立図書館・県史編さん室にて、昭和戦前期・戦後初期・高度成長期における農村教育自治に関する史料、文献を調査した。②北海道では倶知安町にて後志高等国民学校について郷土資料館にて文献調査を実施した。③また道立図書館では道内実業補習学校による地域農業教育の記録を調査・収集した。④広島県では東広島市西条において、戦前昭和期から戦後期にかけて展開された檜高憲三の西条小学校の「独創教育」について、孫の明子氏の聞き取り調査などを行なった。⑤また呉市にて模範村広村の教育について、専徳寺住職などの聞き取りを行なった。⑥千葉県では県立図書館にて伊藤鬼一郎の御宿小学校における五倫黌教育について文献調査を行った。⑦また模範村源村における教育について広村と比較する観点から県立文書館にて調査した。⑧徳島県の松茂町にて戦前昭和期の町政と公民学校に関して調査した。⑨また神山町で組合立公民学校の設置について役場文書などで調査した。⑩神奈川県では県立図書館にて川崎小学校の高等科単置と職業指導について調査した。⑪また相模原市・藤沢市の青年学校教育について県文書館にて文献調査を行った。その結果、前年度定式化した仮説に加えて、1.農村教育自治は、「部落」(自然村の共同体)が基礎自治体として機能している場合に展開されること。2、その背景に真宗や日蓮宗など民衆宗教の共同体が存在する場合が多いこと。3、それらは戦後高度成長期に弱体化し、農村教育自治の実践が一部を残して消えていったこと。以上が現在、暫定仮説として提示し得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度も29年度と同じく、学内業務の関係で本調査研究の実施が年度後半に集中した。調査地域は当初、北海道・徳島県の継続、中国・関東地域の新規調査を計画した。そのうち島根県は予備文献調査を行ったが本調査に至らなかった。 なお、平成30年度は『三重県史』(近現代編)発行のため、研究時間の多くをその執筆に費やした。執筆内容は本調査研究の成果を反映した部分も多かったが、その関係で学会発表・論文執筆ができなかった。平成29年度から30年度の調査内容の学会発表や論文化は令和元年度の課題として残った。なお、三重県史で論述した概要は、①実業補習学校や青年学校が戦前の農村教育自治の中心施設とされ、それらのうち主要なものは高等公民学校とされたこと。②県は、戦後直後新学制実施までに、農村青年教育の充実を図るため青年学校を実業公民学校として改革したが、新学制への転換ですぐに頓挫した。③結局青年学校の一部が定時制高校になったほかはほとんど廃止され、新制高校数が極めて制限されたため農村青年の教育機会に問題を生じたこと。④一部では青年学校を各種学校として転換するものもみられたこと。⑤高度成長以後は、農民の賃労働者化、農業教育の低迷、高校への進学率の上昇などにより、全村的な教育自治の動きは弱まったこと。⑥農村教育自治の伝統は、教員組合の地域教育運動などに継承されたこと。⑦それは高度成長期以降は低調となっていったこと、などである。今後はこうした点で各府県との比較考察をする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、各地(島根・福井・石川など)における地域教育自治実践の史料を収集するミクロな調査とともに、それを土台として、明治後期の地方改良期から戦後の高度成長期までを視野において、日本の農村民衆の自治的な教育の営為やその方向性を日本教育史の中に位置づけるマクロな考察を進めたい。 まず、ミクロな調査として継続するものとして、①北海道の高等国民学校(八雲・岩見沢・留萌)の調査、②山形県の実業公民学校(寒河江・遊佐・赤湯)など。新規な調査として、①島根県の加藤歓一郎による仁多郡青年学校、日登中学校の実践、②茨城・栃木・群馬など北関東地域教育実践の調査。③福井・石川・富山など北陸地域の調査などを実施する。マクロな考察としては、地方改良期の模範村について広村と源村の調査を引き続き行い、模範村政策と地域教育との関係について考察する。②昭和戦前期の農村更生運動期については、徳島県の優良村松茂町における三木六三郎の松茂公民学校、またその影響を受けた神山町の組合立公民学校設置を事例にして、行政との関係で公民学校政策を考察する。③戦後改革期においては、新潟県関川村の「関川学園」について、以前に学会発表した内容を、城戸幡太郎の生産教育論との関係で考察を深め論文化する。 そのほか、科研の最終年度であるため、実業補習学校・青年学校の各府県の政策、実業補習学校教員養成所や青年師範学校の動向にも注目しながら、1920年代から1950年代の農村教育自治の史的展開を、調査報告書作成を視野に入れてまとめていきたい。次年度調査研究に必要な経費は、調査旅費、文献購入費、報告書作成費等である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度計画したパソコン、カメラなどの購入を今年度行ったが、予定した島根県調査、学会発表等を実施することができなかったこともあり、87、000円弱の次年度への繰り越しとなった。次年度は年間を通じて調査研究を行い経費に支出を円滑に実施するよう努めたい。
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