2019年度は、東京都(5月)、福島県(11月)、島根県(12月)、千葉県(12月)を調査した。その成果の一部は、7月の早稲田大学での「中学校史研究会」、9月の中等教育史研究会、同月の教育史学会、10月の日本産業教育学会で発表し、その一部は芦屋大学の紀要に論文として掲載した。(1)東京都では都立中央図書館にて、大正から昭和戦前期の東京市立と府立の地域教育の政策と実態を比較しながら調査し、多摩地区などを含む郡部では、実業補習学校を農林公民学校とするなどの自治的な動きがみられることなどを明らかにできた。(2)福島県では、田村市船引町において、大正期から昭和戦前期の助川啓四郎による片曽根公民学校の設立と運営について文書調査および聞き取り調査を行った。さらに県立図書館で文献の補充調査をし、ついで南会津町の田島高等学校、町立図書館および下郷町役場にて、戦前昭和期の田島公民学校を中心とした地域教育の実態について調査を行った。(3)島根県では、県立図書館、松江市立図書館などにおいて、戦前戦後に大原郡日登村で加藤歓一郎が実践した全村的生産教育について調査を行った。(4)千葉県では、夷隅郡御宿町立図書館にて、大正期に伊藤鬼一郎が実践した地域教育の実態の調査を行い、ついで山武市郷土資料館にて明治期の「模範村源村」および大正期の「私立埴岡農林学校と蕨真一郎」について調査した。その結果、戦前の農村教育自治を条件付けた要因としては、1.全村的教育に熱心な中心人物がいること、2.中心人物をささえる強い共同体があること、3.その経済的土台として山林など共有財産等があること、4.住民に同一の宗教など精神的紐帯が存在することであると仮説的に考えるに至った。そしてそうした村落の教育自治は多くの場合小学校よりも実業補習学校や青年学校という青年教育機関を核として実施する場合が多いことも判明した。
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