研究課題/領域番号 |
15K04268
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
中山 文 神戸学院大学, 人文学部, 教授 (30217939)
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研究分担者 |
伊藤 茂 神戸学院大学, 人文学部, 教授 (90122241)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育演劇 / 学生演劇 / プレゼンテーション能力 / コミュニケーション能力 / 想像力 / アイスブレーク / ファシリテーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2点ある。第一は学生のコミュニケーション力・プレゼンテーション力・想像力・集中力を涵養する演劇ワークショップの構築である。身体を動かしグループで討論し、全員で一つのことをやり遂げる。その過程での喜びを共有することによって、心を開いて積極的に発言できる場を作りあげ、人前でも過剰に緊張することなく自分を主張し他者と交流する人間性を獲得する。イギリスで始まった教育演劇は、今や欧米だけではなく、香港・台湾でも大きな注目を集めている。本研究を通して、内向的で人見知りを自認する学生が、緊張することなく人前で自分の意見を発表できるリラックスした環境を作り上げる方法を築くことが第一の目的である。第二の目的は、演劇を専門としない指導者であっても上記のワークショップ指導ができるように、ファシリテーターとしての技術を学ぶことである。
今年度は、以下の研究活動を行った。 ①4月、上海戯劇学院訪問:中国の教育演劇関係者との関係作りを行った。②6月、浙江大学で講演会の開催:学生演劇サークルとして中国でもっとも著名な黒白劇社25周年記念行事として、研究分担者伊藤茂教授が学生が日本演劇に与えた影響についての講演を行い、中山が通訳を担当した。また演劇が一般学生に与える効果について、黒白劇社指導者の桂迎氏と意見交換を行った。③福岡ドラマ教育研究会「前進!コミュニケーション活動をいかした学びの方法」参加。国内の小中学校で行われている教育演劇の実情を学んだ。④ワンチョンの演劇ワークショップと日中演出家会議の開催。グローバルに活躍する北京出身の演出家ワンチョンを招き、15名の学生にコミュニケーション能力を伸ばすための演劇ワークショップを行った。また、日本の演出家3名(棚瀬美幸、ごまのはえ、笠井友仁)との座談会を行い、各国の若者の演劇状況について情報を交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は日本・中国・台湾の教育現場における演劇ワークショップの実情を把握し、先進モデルの情報を集約しつつ研究協力者とのネットワークを構築することであった。具体的には以下の3点を目標としている。 ①日本国内でのワークショップ調査とファシリテーター講演会の開催。②台湾における教育演劇状況の把握。③上海戯劇学院戯文系教育演劇コースの授業見学。
それぞれについて、進捗状況は以下のとおりである。①福岡ドラマ教育研究会「前進!コミュニケーション活動をいかした学びの方法」参加。国内の小中学校で行われている教育演劇の実情を学んだ。②2016年2月末に台南で調査を行う予定だったが、ちょうど台南地震がおこり、安全確保のために予定中止した。③上海戯劇学院を訪問し、戯文系主任の陸軍氏に当コースについてインタビューを行った。だが、新学期が始まる直前だったために、授業見学はできなかった。次年度は9月以後に再度訪問する予定である。
また、上記以外の進捗として以下の2点を挙げる。④学生演劇サークルとして中国でもっとも著名な黒白劇社25周年記念行事として、研究分担者伊藤茂教授が講演を行った。日本では1960年代に一般学生が始めたアングラ演劇が現在の日本演劇においても大きな影響を与えていることに対して、大きな反響があった。また一般学生が演劇を通して社会的に成長する実例について、黒白劇社指導者の桂迎氏と意見交換を行った。⑤ワンチョンの演劇ワークショップによって、英米の普通教育の中で行われている教育演劇の効果を体験することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度の研究の主眼は、浙江大学黒白劇社の指導者である桂迎氏を日本に招き、長期にわたる演劇ワークショップを開催することである。「その場を和ませる」「話し合いが自然に行われる」「ひとつの作品が出来上がる」の3点をポイントとして、日本人学生により適合したワークショップ形式をともに模索する。本来15回のワークショップを予定していたが、科研費の減額により、5回となった。 実施するワークショップは申請者が担当する2,3,4回生のゼミ各18名を対象に行われる。授業開始時に、2回生は初顔合わせ、3回生は半年間を、4回生はすでに1年半を同級生として過ごしているメンバーである。それぞれで、効果にどのような差が生まれるかを考察したい。5回の授業で、仲間意識を深め、活発な交流のできるゼミを作り出すためのメソッドをつくることである。毎回の授業をビデオにおさめ、桂迎メソッドのテキストとして編集する。 また、9月には上海戯劇学院を訪問し、人類演劇学の専門家孫慧柱氏に教えを請う予定で、氏の了解もすでに得ている。「自分の置かれた立場に応じて、人は自分の役割を着脱する必要がある」という氏の主張は、現在の急変する中国社会の中では非常に有益で、多くの企業で人材養成プログラムの中に組み込まれている。教育演劇の社会的有益性を感じさせる。
本研究の究極的な目標は、学生の資質を伸ばし、積極的で和気藹々としたクラス作りが可能となる演劇ワークショップのノウハウをまとめること。そしてその指導が演劇学を専門としない指導者でもできるようになることである。そのためには、日本の教育現場に適合したファシリテーター育成プログラムも同時に構築する必要があると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来2月末に、教育演劇の専門課程を有する台南師範大学に実地調査に訪れる予定であった。だが、2月末に台南地震が起こったために、予定を中止した。そのため、中山と研究分担者である伊藤氏の旅費合計20万円が未使用のまま年度末を迎えた。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年2月末に台南師範大学を訪問する予定である。
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