研究課題/領域番号 |
15K04271
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研究機関 | 東亜大学 |
研究代表者 |
清永 修全 東亜大学, 芸術学部, 教授 (00609654)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 芸術的陶冶 / カール=ペーター・ブッシュキューレ / 多元文化社会 / ヨーゼフ・ボイス / 拡大された芸術概念 / 生の技術 / 文化的陶冶 / マックス・フックス |
研究実績の概要 |
平成28年度は、現代ドイツのける美的・感性的教育の新展開の調査の一貫として①ドイツにおける近年の芸術教育思潮の中でもとりわけ注目を集めている「芸術的陶冶(Kuenstlerische Bildung)」の潮流を中心に研究を進めた。中でも特にその代表的な論者であるギーセン大学のカール=ペーター・ブッシュキューレのコンセプトを分析の対象に取り上げて検討してきた。その際、同教授の論考の中核をなす「多元文化」社会における主体形成の問題とその中における「現代美術」の果たす役割と教育的意義、さらには同氏の芸術教育論が依拠するヨーゼフ・ボイスの芸術論、わけても「拡大された芸術概念(Der erweiterte Kunstbegriff)」「社会彫刻(Sozialplastik)」、および哲学者ヴィルヘルム・シュミットの「生の技術(Lebenskunst)」を掘り下げて理解するべく努めた。②また、同時に現行の教育改革における美的・感性的教育の果たす役割を文化政策的な側面からも照らし出して理解すべく、美的・感性的教育をもその中核に含む「文化的陶冶(Kulturelle Bildung)」の領域にも関心を拡げ、その代表的な論者であるデュースブルク=エッセン大学のマックス・フックスの理論に注目して分析を進めた。③そして、こうした下準備を受けて2017年3月1日から13日にかけてドイツを訪れ、両氏はもとより、同じくギーセン大学の教育科学研究所で教鞭をとるルードビッヒ・ドゥンカー教授、同大学に勤務し「ドイツ芸術教員連盟」の国際交流担当であるマーク・フリッチェ氏を訪問し、聞き取り調査を行ったほか、教育現場での現状理解のため、ラントグラーフ・ルードヴィッヒス・ギムナジウム(ギーセン)やヴァイディッヒ・シューレ(ブッツバッハ)授業参観を行い、教員たちと意見交換を行った。その成果をまとめるべく現在大学紀要に報告書を執筆中である(平成29年9月発行予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アネッテ・フランケの2007年の書『現代美的・感性的教育のコンセプト(Aktuelle Konzeptionen der Aesthetischen Erziehung)』などの同時代分析を手引きとしつつ、2000年以降の最も大きな潮流である「芸術的陶冶」を教育学的・芸術学的・社会思想史的なそれぞれの方面から読み進め、その広がりを把握するとともに、かつ代表的な論者との聞き取りを行い、教育現場との実践との比較も含めて、多層的に理解することができた。もっとも本潮流と他の潮流との関わりについての立ち入った分析は課題として残されることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の締めくくりとして、当初、本年度の課題として想定していたピエランジェロ・マセの『差異としての美的・感性的教育』の構想、「美的・感性的オペレーション」のコンセプトをはじめ、現代ドイツの芸術教育論における鑑賞教育の展開を取り上げ、「芸術としての鑑賞教育」という近年の代表的な流れを理論面と実践面において調査・分析していくつもりである。そして、その成果を改めて報告書や論文のかたちで発表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の第三段階として改めて文献調査のための書物や資料を入手する費用がかかることに加え、現地での研究者たちとの意見交換や聞き取り調査、教育実践における実態調査も含めた渡航費用が必要となるため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の文献購入をより早期に計画的に行い、また海外調査もこれまでよりも早い時期に実施し、全体としてバランスのとれた的確な利用を心がけたい。
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