平成29年度は、現代ドイツにおける美的・感性的教育の新展開に関連する調査の一環として、主に芸術教育における現代美術の位置付けや教科としての再編をめぐる動向に目を向け、文献調査を進める一方、言説をリードする代表的な研究者をドイツに訪ね、意見交換を行った。前者に関しては、現代美術の戦略にインスピレーションを得た芸術教育コンセプト「美的・感性的オペレーション」で知られるリューネブルク大学のピエランジェロ・マゼー教授を訪ねた。また、現代美術の最前線の状況を把握すべくカッセルで開催されていた現代美術の世界的な祭典「ドクメンタ」も視察した。同氏との議論では、同年3月に訪れたカール=ペーター・ブッシュキューレのスタンスとの差異を確認し、そのポジションについて理解を深めることができた。後者のポイントに関しては、上記両名の対極のポジションにあることで知られるザルツブルク大学(オーストリア)のフランツ・ビルマイヤー教授、そして同氏とともに多くの研究プロジェクトを実施してきたミュンヘン芸術大学のエルンスト・ヴァーグナー博士をミュンヘンに訪ねた。両氏はコンピテンシー指向の学習指導要領とそれに基づく芸術科の授業のスタンダード化を推進する代表的な論客でもある。現代美術の戦略の摂取に教科の再生の道を探るマゼー氏にとは逆に、ビルマイヤー氏は制度論的考察を梃子に芸術概念の限界を指摘し、現代社会の現状に鑑みてむしろ芸術教育をイメージ学へと改編することを要求する。彼らの論争を大局的に捉えることで教科の再編の議論の布置が確認できた。この他、ハンブルクでは同地の大学にアンドレア・ザビッシュシュ教授を、さらにドイツ芸術教員連盟ハンブルク支部副代表であるヨハンナ・テーヴェス氏を訪ね、同州の現状とともに、教育改革と芸術科再編の動向に対する教育現場の受け止め方なども伺った。その成果はすでに大学紀要において公にしている。
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