本研究は、カナダにおける道徳教育(moral education)政策の形成過程を明らかにするとともに、各州で異なる学習ガイドラインに基づく道徳教育の内容を比較検討し、多文化国家カナダにおける道徳教育政策の形成と運用実態を総合的に明らかにすることをめざすものである。 多文化主義を国是とするカナダにおいては、多文化主義の理念に基づく道徳教育推進策や内容は、アカデミックな議論として活発に展開されるものの、現場で教える教員には道徳教育政策の内容が不明なまま、あるいは道徳教育の教授内容の系統性や一貫性が理解されぬまま、日々の授業が展開されている。さらに現在、カナダ全10州のうち、道徳教育を必修科目化しているのは3州(ケベック州、オンタリオ州、サスカチュワン州)、選択科目化が2州(ブリティッシュ・コロンビア(BC)州、アルバータ州)、残り5州は特定科目として設置せずといったように、道徳教育の有り様は分かれていることを指摘した。平成29年度は、(1)前年度に引き続き文献調査を実施することにより、カナダの道徳教育の歴史的変遷を検討した。さらに(2)カナダ全州の中でも州のコントロールが強いとされるオンタリオ州を対象に、道徳教育政策の現状について、州教育省、教育委員会、大学研究者を対象に実施した訪問調査の結果を取りまとめた。オンタリオ州では、20世紀以降、隣国アメリカ合衆国の道徳教育の動向に強い影響を受けつつも、近年では新自由主義的色彩や新保守主義的色彩の強い道徳教育が推進されていることを明らかにした。
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