今年度の実績は大きく2つに分かれる。第1は、子どもの権利の歴史的形成に焦点を当て、子どもの権利というコンセプトが現実政治においてはじめて登場した19世紀中盤から後半以降におけるこのコンセプトに内在していた財産権至上主義的人権秩序の組み換えという契機が、1世紀後の20世紀後半以降に再登場する子どもの権利というコンセプトにおいてどのようにして失われてきたのかを検討した。19世紀後半における議論としては、Marxに焦点を当て、彼の財産権批判が、彼の「人間固有の力」および人間の本質としての「類的存在」といかなる関係に立ち、さらに彼の人間の全面的発達という議論といかなる関係の立つのかを検討した。そして、20世紀後半に再登場する子どもの権利論が、財産権至上主義的人権秩序への黙示的な帰依を内在化させていたがゆえに、19世紀後半に登場した、子どもの不完全な基本的権利に対応する義務を国に発生させるという構想を、継承できなくなったことを明らかにした。あわせて、1960年代以降登場する日本の子どもの権利論が、19世紀後半における議論の特徴をどのように継承発展させてきたのかも明らかにした。当初はあまりに基礎的な作業ゆえ、今後の法解釈論の作業にとってどれくらい有益なのかが不明であったが、財産権と子どもの教育を受ける権利の緊張関係を意識して初めて学説史を検討することができることを明らかにしえた。法解釈論を超えて、政治哲学の領域に分け入らなくてはならなくなったために、相当な時間を要することになった。成果は論文として来年度に公表することになっている。
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