本研究の目的は,日本とアメリカにおける「専門職の学習共同体」としての学校の特質および意義と課題を理論的・実証的に明らかにすることである。具体的な到達目標は,①「専門職の学習共同体」に関する代表的論者の議論の特徴について,教育経営の組織論やリーダーシップ論の観点から理論的な位置づけと課題を明確にすること,②アメリカの「専門職の学習共同体」としての学校における参与観察や校長への聞き取り調査をもとに,その学校の特徴や校長のリーダーシップの在り様を日米比較の観点から明らかにすることである。今年度は、「専門職の学習共同体」の研究の源流として位置づく社会学者ダン・ローティ(Dan Lortie)の『学校教師(schoolteacher)』(1975)に注目し、『学校教師』がいかなる意味においてその後の研究の原点(出発点)となったかについて,ローティの提起した様々な重要概念と関わる観点から検討した。そのうえで,ローティの研究の遺産が,後の研究者たちからどのように評価され,どのような研究へと発展・継承していったかという点に留意しながら,その意義と課題について再検討した。リトルの「同僚性」の研究は「成功を収める学校」の教師たちは(ローティがその不在を指摘した)「共通の技術文化」を構築していること,ローゼンホルツの「教師の職場」研究は,ローティの明らかにした教師の孤立,試行錯誤への依存,「共通の技術文化」の不在を,同僚や校長との協働的・支援的な関係性を通じて克服した学校像を明らかにしていることを指摘した。また90年代以降に行われた『学校教師』の追試・検証を試みる複数の研究に注目し,①教員の高齢化の進行,②教員の人種構成の変容,③職務満足の低下,④援助を求める相手の変化,⑤外発的報酬に不満足の教師割合の増加,⑥精神的報酬の減少と付帯的報酬の増加といった結果について,若干の考察を加えた。
|