本研究は、中等教育段階の生徒の民主的社会への社会化と個人の適性や能力に対応した分化の葛藤をいかに縮減するかをテーマにしている。そこで、この葛藤を止揚すべく挑戦していると見なせる、南西ドイツの「社会的な学校」「共同学校」(Gemeinschaftsschule、以下GMS)を分析の対象に、その理念、制度、実践の各次元から、2つの学校フィールドでの観察、校長、教員、生徒への聞き取り、既存資料の分析の方法で定点観測を試みた。
得られた知見は次の通りである。①GMSは、個々の生徒に応じた学習スタイル(難易度、テンポ、形態、場)が可能な制度設計をしており、自律的な学習ができる生徒には、集合的な関係ゆえに生じる教員-生徒間の緊張関係の少ない心地よい場である。また毎時間の記録帳や時折のコーチングが、生徒の目標達成をサポートしている。②一方、多様で異質な生徒がともに過ごすために必要な規律も設定されており、生徒がこれに応じられず教員との葛藤、生徒指導上の問題が生じることも日常的に見られる。③GMSでは、自律的学習が困難な生徒や特別支援を要する生徒にとって、教員のサポートを得にくくもある。またインクルージョンも進められているが、人的資源がより必要との教員の認識が見られる。④GMSでは入学時に教育修了資格(卒業資格)を設定しないことで、3種類の資格に応じた個々の生徒の学習が可能である。それと同時に、学年が上がるほど年度が進むほど、教育修了資格の取得が強調され、一斉教授的な時間(「インプット」)が増える傾向にもある。また、GMSにはないと喧伝される宿題が外国語では確認できる。⑤複数の教員ほかスタッフで複数の生徒を見る(「チーム教育」)上で、学習材の事前準備、活動中の対応、事後の記録や評価が、透明化・客観化・スタンダード化されており、これを担保する上でのスタッフの負担は大きい。
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