本研究は、移民を受け入れ様々な文化や価値が共存しているイタリアにおける、学校教育でのコンピテンシーの生成について取り上げたものである。 イタリアでは、2006年EUによって提起された「生涯学習のための8つのキー・コンピテンシー(欧州のキー・コンピテンシー)」に準拠している。2012年の全国学習指導要領では、多様かつ非連続的な今後の社会において必要な汎用的な能力として、「欧州のキー・コンピテンシー」をイタリアの学校教育の目標として明確に位置づけている。この全国学習指導要領における各教科の学習目標を分析してみると、ほとんどの教科で複数のキー・コンピテンシーの育成を図ろうとしていることが分かる。また、各コンピテンシーをベースとして教科の目標を見てみると、複数の教科を横断して育成されるものであることが分かる。そして、全国学習指導要領の前文で「学校での学びは、青少年が生きていく中で多々経験する教育の一つでしかない」と記しているように、学校教育を生涯教育の一部として捉えており、これも欧州の生涯教育の概念と一致している。 生涯にわたる学びとして捉えている中で、実際の学校教育においては完結し得ない課題とも言える。イタリア公教育省が作成したコンピテンスの認証様式を分析すると、「欧州のキー・コンピテンシー」の枠組みに強く依拠しており、これまでイタリアの学校教育現場で重要視されていた生徒(個々)の成長に関する内容が盛り込まれていない。このように2012年以降の公文書においては、学習内容とその評価に変化が確認されるのだが、2017年に実施した学校の教員へのインタビューでは、その限りではない。各教員レベルでは、以前から行われてきた個人内評価が行われており、公文書とは別の次元で教育活動および評価が実施されている。生涯にわたって生成されるコンピテンシーとしては、重層的な実践において生成されていると言える。
|