本研究は、アメリカ州政府による大学生に対する経済的支援の特質と課題を考察し、教育を受ける機会を保障する高等教育財政制度の在り方について検討を行うことを目的としている。アメリカでは高等教育の責任は州が有しており、州政府は大学の設置認可や州交付金の予算編成・配分を通じて、また学生に対する奨学金事業を通じて直接的・間接的に学費負担の軽減を通じた教育機会の均等化に取り組んでいる。その政策は多様であり、日本にとって参考になる事例も多い。しかし、これまで、先行研究では十分にその特質について検討が行われてこなかった。そこで、本研究では各州を利用可能なデータから類型化し、特徴的な政策を実施する州を取り上げてケーススタディを実施する。 最終年度は、、公立大学の授業料の実質的な無償化を支える奨学金制度の特質を考察するため調査を実施し、成果を論文にまとめた。近年、オバマ前大統領の提案を受けて各州では公立2年制大学の授業料無償化の取り組みが広がっている。ただし、これは授業料そのものを徴収しないのではなく、連邦・州・大学等が実施する給付奨学金を組み合わせて実質的に無償化を図ることを意味している。近年無償化を開始した多くの州では、無償化の方法として「ラストダラー」と呼ばれる配分方法が採用されているが、これは、授業料から連邦等の給付奨学金を差し引いた残りの額を、州政府が給付奨学金として支給するというものである。このような授業料の実質無償化が広がる背景には、中等後教育の学歴や資格を有した人材が増えることが州の経済発展につながるという考え方がある。授業料無償化を導入した州では大学入学者数が増加しており、今後の成果が注目される。
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