研究課題/領域番号 |
15K04312
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研究機関 | 札幌大谷大学 |
研究代表者 |
岡部 敦 札幌大谷大学, 社会学部, 講師 (00632340)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育学 / 教育制度 / 中等教育 / 進路指導 / カナダ / キャリア教育 / 職業教育 / パスウェイ |
研究実績の概要 |
本研究は、高校教育カリキュラムと生徒の進路選択との関わりについて、後期中等教育における複線制の可能性という視点から考察し、日本における高校教育のあり方について検討することを目的としている。比較対象として、カナダ・アルバータ州の高校教育の事例を取り上げ、単線型中等教育システムの中で生徒にどのような選択肢を与え、若者のキャリア形成にどのような影響を及ぼしているのかについて明らかにし、複線型の可能性について検討することをねらいとしている。平成28年度の研究実績は、平成27年度に行った現地調査をさらに深めるため、フィールド調査の対象としてアルバータ州カルガリー市教育委員会管轄の高校を選んだ。その理由は、これまでの調査対象地域(エドモントン市・メディスンハット市)と比較し、アルバータ州における教育政策「高校再構築(High School Redesign)」での提言内容を、最も効果的に生かしていると判断したことに加え、改革プログラムの作成および実行に関する教育委員会のリーダーシップが最も顕著に見られる事例であると判断したからである。平成28年度における調査は、カルガリー市内で社会的・経済的な困難を抱える若者が多く通学するオールタナティブな高校を重点的に訪問し、生徒へ聞き取り調査を行った。学校・企業・地域の連携によって、あらゆる若者に学習の機会を提供しようとする仕組みについて理解を深めることができた。また、生徒への聞き取りから、精神的な疾患、家族の問題、経済的な課題などを抱えながら、転学を繰り返し、最終的に自分に適した学校を選択し、キャリア形成につながったという事例を多く得ることができた。これらの成果は、10月に自ら企画した日本キャリア教育学会第38回研究大会の特別企画シンポジウムで報告した。また、同年11月にスペイン・マドリードで開催された国際キャリア教育学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に予定していた通り、カルガリー市内の2つの高校において、生徒を対象にした聞き取り調査を行い、高校および高校で履修するプログラムが進路選択にどのような影響を及ぼしたか、また高校での学習に対する動機付けとなったのかについてデータを得ることができた。特に、貧困、精神的疾患、薬物中毒などといった深刻な課題を抱える若者が、どのような経緯で高校教育に価値を見出し、主体的な進路選択を実現したのかに関するストーリーを聞き出すことができた。また、国内の高校教育の事例については、市立札幌大通高等学校をフィールドとして調査するための準備を進めることができた。今後は、生徒、教員、企業など、同校の教育活動に関わるキープレイヤーへの聞き取り調査を実施できるように準備を進める。当該年度中の研究成果の公開については、6月に開催されたカナダ教育学会にてカルガリー市の取り組みの概要について発表する機会を得た。また、当初予定されていた北海道キャリア教育職業教育フォーラムについては、日本キャリア教育学会第38回研究大会との合同開催として開催され、特別企画シンポジウムとして札幌市の実践、韓国の実践に関する報告のあと、カナダ・カルガリー市の実践として報告することができた。また、国際学会として、11月にスペイン・マドリードで開催された国際キャリア教育学会にてポスター発表の機会を得た。これらの発表を通じて、これまで連携関係にあったアルバータ大学のボニー・ワット氏(職業教育)に加え、カルガリー大学のナンシーアー・サー氏(カウンセリング・心理学)とも協力関係をえることができた。しかしながら、アルバータ州以外のカナダ他州をフィールドとした調査は、研究協力者をみつけるのに難航しており、当該年度中に実施することができなかった。最終年度である平成29年度中に実現できるように引き続き努力する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にあった、アルバータ州内でのアンケート調査については、平成28年度中にカルガリー市教育委員会からの協力を得られる見通しとなっており、すでに研究計画書を提出し、調査の許可を得ている。また、キャリアカウンセリングの視点からの分析を加えるため、カルガリー大学のナンシー・アーサー氏の研究協力も得ており、平成29年度より、カルガリー大学に客員教授として籍を置きながら、現地でのアンケート調査およびそれに続く聞き取り調査を実施する計画を立てている(3月中旬より、カルガリー大学客員教授として着任)。滞在中に、カナダ他州の動向についての調査も実施する予定である。国内においては、市立札幌大通高校において、聞き取り調査を行い、カナダ・アルバータ州との比較を行いながら、本研究で明らかになった複線制の概念が、日本においても当てはまる普遍性を持ったものであることを明らかにする。国内および国際的な学術団体の研究会については、カナダ教育学会、日本キャリア教育学会、および国際キャリア教育学会(メキシコシティー)での発表を計画している。また、それ以外に、カナダ・アルバータ州において、学術団体の研究会に加えて、カルガリー市内での報告会の開催も計画している。また、北海道キャリア教育職業教育フォーラムについては、主催者が在外研究のため不在となることにより、平成30年度を目処に実施する計画である。論文としての発表は、日本における関係する学術団体の紀要への投稿のほか、カナダ国内の学術雑誌への投稿を計画している。また、研究報告書については、平成30年度中に発行できるように準備を進める。当初計画していた、アメリカおよびEU諸国での調査については、調査計画に資金的および時間的なゆとりがないため、本研究では扱わないこととする。近隣のアジアにおいて若干の資料収集を行う可能性を探っているところである。
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