本研究は、私的セクター(企業やNPOなど)を教育再生事業にドラスティックに関与させたケースの成功事例を検証し、教育制度改革への応用の可能性を提案することを目的としている。 本研究が注目するのは、ロンドン・ハックニー区に始まる教育ガバナンス改革である。同区は破綻した教育の自力再生が不可能になった時点で、中央政府の介入によって全権限が非営利民間組織ラーニング・トラスト(TLT)に奪取されルことになった。教育業務を担ったTLTは、10年の契約期間の間に顕著な改革成果を上げた。この〈国家介入-トラスト導入〉というハックニー手法とでもいうべき手法の詳細を明らかにするために、一昨年度は、その改革を現地で担ったTLTのCEであるA.ウッドを招聘して複数回の研究会を行うなどして知見を深めた。昨年度は、そうした情報を検証しつつ、TLTと類似の改革手法が適用されたドンカスターで改革を主導するチームから聞き取り調査を行うとともに、教育省の担当者から失敗自治体の再生計画についての聞き取りを行った。 本年度は、これらの成果を受けて、ハックニー区のフォローと並行して、教育省およびハックニー手法の導入が進んでいるドンカスター、バーミンガム、スラウを訪問調査して情報収集を行った。さらに、自治体ガバナンスを評価している教育水準局Ofstedの前長官Sir Michael Wilshawとコンタクトを取り、日本で研究会を行うべく招聘作業を進めるとともに、学会の大会発表、学会誌等への執筆を行い成果の発信を行った。
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