本研究は、日本と諸外国における新しい能力観に基づく学校教育の質保証という課題にどのように対応しるのかというモデルを構築することを目的とする。PISA調査前後からの学校教育に対する諸要求の変化は、日本及びドイツ語圏のような「公」への依存度が強い国と、英米を中心とする「市場原理」型の国との対比において、多くの課題を生み出している。効率性を高めるためには、公教育行政の「多様化」を基盤とした「最低水準を質保証する多元型」モデルが日本にはより適したモデルであるかどうかを検証できるのかを中心に分析及び調査を進めた。 平成29年度(最終年度)は、ドイツにおける調査を実施するとともに、これまでの研究成果をとりまとめ、9月にスイスのツーク教育大学で開催された「スクールリーダーシップシンポジウム」において、日本の教育政策の特質について発表を行った。更に研究成果の一部を『世界の学校と教職員の働き方』(共著、学事出版、2018年3月)や「ドイツの幼稚園教諭・保育士養成政策に関する研究」(玉川大学教育学部紀要『論叢』第16号、2017年、1-23頁)等として公表した。 最終的には本研究成果報告書として、『教育政策における学校教育の目的・目標と教育経営研究』(単著、2018年3月、全109頁)をとりまとめた。そこで明らかにしたのは、ドイツ語圏における教育改革は、類似性を持ちつつも、連邦と州(あるいはカントン)の規模や権限関係が異なるため、大きな多様性を持ちつつも、「公」の役割を事前規制型から事後規制型へと移行して、「公」の守備範囲を縮小する傾向が看取できることを示した。また、国は目的や目標の大枠を示し、具体的な手法は学校に委任する傾向が明らかになった。一方、日本では、ドイツ語圏諸国と比較すると、都道府県や自治体に権限が残され、学校の裁量権は制約されていることが明らかになった。
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