研究者に対して研究資金を授与する際に、最初から特定のグループを除外する (あるいは優先する)ことは、20世紀後半の時代になると、「学術研究における普遍主義の理念」に抵触するものという理由で、そのままでは容認されなくなる。しかしながら、大学史あるいは科学史を少しでも参照すれば、これまで、学術研究における普遍主義の理念が、とくにそれが、女性研究者への適用という機会においてまがりなりにも実現した時代が訪れたことはただの一度もなかったことも事実である。「女性研究者のみに授与」する研究資金は、むしろ学術研究における普遍主義の理念が実現しない度合いに比例し、増殖を続けたといってよい。
しかしながら、女性研究者のみを対象とした(あるいは女性研究者優先の)研究資金を仔細に検討すると、そこには、新たな方向をも認めることができよう。すなわち、既存の、“伝統と権威”がある研究資金の受給者におけるジェンダー・インバランスの解消策としての女性のみを対象とした(あるいは女性優先の)研究資金という位置づけ――学術研究における補償主義の理念の導入――だけではなく、いわば21世紀型とでも呼ぶべき研究基金への模索である。歴史学の専門学会のひとつである女性歴史家調整協議会(CCWH)が1998年より授与しているキャサリン・プレリンガー賞は、このような模索のひとつとして挙げることができる。その理由は、第一に、この賞が、「非在来的」な女性研究者支援を全面的に掲げていることであり、かつ、第二に、その選考方法もまた、「非在来的」と言いえるからである。このことは、第一に、女性研究者支援を考える際に、「類(カテゴリー)としての女性」を見るのではなく、階級・人種・民族等の変数をも入れる必要性が認識すると同時に、第二に、人間として研究者の個別性に敢えてこだわることを意味していた。
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