平成29年度(最終年度)はシカゴ市学校区やマイアミデイド学校区を主な事例にして、①一般財源保証債の基本スキーム分析、②当該債の証券市場における信用形成に寄与する州資本補助金の仕組みを比較検討し、上位政府の教育財政における重要性を考察した。 前者については、イリノイ州議会(州資本委員会)が資本補助の策定に関する大きな影響力と権限をもち、大都市にあるシカゴ市学校区への優先的な資源配分を重視する動向や議論が強い。リベラル派による教育分野への再分配政策を支持する政治的意向が強いなかで、これに対抗する保守派(その多くが郊外を選挙区とする州議員)が存在し、教育政策における州レベルでの政治的対立の構図が、州資本補助金のあり方を決定している。 また後者については、フロリダ州議会の資本委員会がイリノイ州と同様、大きな影響力を有するが、一般財源保証債への債務支払(つまり借金の肩代わり)についてはイリノイ州より影響力は小さい。マイアミデイド学校区は自主財源力が弱く、学校区単独で債券の信用形成を図るには限界があるなかで、同学校区は「無限責任」の形で一般財源保証債を発行し、追加課税を担保とすることを目論見書の中で約束し、その過程が、学校区の予算編成に盛り込まれていることを明らかにした。 市場に教育財源をもとめるアメリカ学校区予算編成や起債システムにおいて、「草の根の地方自治」という視点では後者の事例研究が意義深かった。現地視察やヒアリング調査により学校区の納税者に対する一般財源保証債が、何を目的に、どのような建物等を増設するのかを広く示すことが強調されている。公立学校の前に設置された資本改善事業の案内看板はその象徴である。一般財源保証債の発行により学校区全体で借金を負うことの民意形成と透明性が看板に体現されている。地方自治を原則とするアメリカ教育財政の本質を浮き彫りにしている。
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